合同任務3〜帰還


「今度こそ、朝日に向かって出発だ!!」
 ガイが、叫ぶと一同は、火の国に向け出発した。程なくして川の国を抜けると、木ノ葉の森が前途に広がった。
「カカシ!ガイ!!」
「アスマ!紅!!」
 国境まで迎えに来ていたのは、シカマルたちと犬塚キバたちの班だった。
「お〜カンクロウ。久しぶり」
「ったって、4日しかたってねぇじゃん」
 カンクロウの周りで、甘えるように赤丸が飛び跳ねていた。
「シカマル、お帰り。一ヶ月ぶりだね」
「チョウジ、お前ちょっと見ないうちにまたひとまわり…」
 テマリの護衛として砂の里に出かけていたシカマルの前で、チョウジがにこにこ笑っていた。手には、いつものスナック菓子を持っている。
「テマリさん、お帰りなさい」
「ああ。イノも元気だったかい?」
 イノは、テマリのために花を一輪持参していた。面々は、それぞれに再会を喜ぶと大集団を作り木ノ葉の里を目指した。
「なるほど。若い連中同士、ずいぶん交流が進んでいるようだな」
「はぁ。そのようですね」
 リュウサは、和気あいあいと肩を組んで歩くカンクロウたちと木ノ葉の忍たちを珍しい物でも見るように眺めていた。
「木ノ葉崩しから間がないというのに、木ノ葉の連中も気楽なものだ。まぁ、今となっては、あの時、我愛羅が失敗してくれて幸いだったな」
 昨日、音忍たちを撃退した守鶴化した我愛羅の様子を思い出すとリュウサは、そう呟いた。町中で守鶴が暴走していたら、木ノ葉崩しの結果は違ったものになったかもしれない。だが、四代目風影に大蛇丸が成りすましていることに気が付かなければ、次は、間違いなく砂隠れが蹂躙されていたはずだった。
「それにしても木ノ葉の火影は、なかなかの太っ腹ですね。この時期に人柱力である我愛羅たちの留学を快く受け入れたのですから」
「いや。現実は、そんなに甘くはないよ。バキ。合議制会議は、始めから賠償金の問題が片付くまで我愛羅を人質として差し出すつもりだった。そして、大名が金を出し渋ることも予測していた。上役の中にはこの際、我愛羅を木ノ葉に押し付けてしまおうと考えた者もいたようだ。逆に木ノ葉は、我愛羅から一尾を抜きとり、戦力にするつもりだった。留学は、双方にとって都合のいい提案だったんだよ」
 バキは、交換留学を持ち出した時、合議制会議と火影があっさりとそれを承諾した事を何の疑いもなく善意に解釈していた。しかし、事実を知らされ驚愕した。
「…私の提案は、双方に都合よく利用されたということですか…」
「いや、この場合、君の企画が、砂隠れと木ノ葉隠れに採用されたと考えるべきだな」
「…あまり喜ばしい話ではないのですが…」
 バキは、リュウサの言葉に我愛羅の砂隠れにおける立場の複雑さを今さらながらに実感した。そして、幾重にも思惑が交錯する政治の世界を空恐ろしく感じた。
『風影を目指す我愛羅にとって、一番厄介なのは、やはりこの合議制会議の連中だな…』
 何も知らないはずの我愛羅が、ナルトとともに巨木の生い茂る森を歩いていた。
『我愛羅…今のうちに楽しんでおけ。砂の里に帰れば、また辛い日々が始まる…』
…わずか13歳の子どもに過ぎない少年の命を今も昔も大人たちが、弄んでいる…
 バキは、唇をかみしめると、砂隠れでは見たことがない我愛羅の姿をいつまでも見守っていた。

 やがて一行は、木ノ葉の里の正面入り口にたどり着いた。そこを入れば、もう木ノ葉の町中だった。
「帰って来たってばよ!!」
 わずか数日しか経っていなかったのに、なぜか懐かしい気がする一行だった。
「お待ちしてました。皆さまのお出でを歓迎します」
 正面入り口まで出迎えに来ていたシズネは、使節団長のリュウサに恭しく挨拶をすると、使節団を火影の屋敷まで案内した。人々は、その使節団が砂隠れの一行であることを知ると、背負っている大きな箱に注目した。
「あの箱の中に金が詰まっているらしいよ」
「これで木ノ葉の復興も一段と進むね」
「あら…あの子、この前の御前試合の時の子だよ。砂を操ってかっこよかったよね」
「ナルトも頑張ってたけど、あの砂の子がすごくてさ」
「ああ、途中で乱闘があって模範試合は中断してしまったけど、あの子が無事で何よりだったな」
 町中から聞こえる会話にリュウサとバキは、首をかしげた。
「御前試合!?」
「砂の子って…我愛羅の事か!?…いったいなんの話だ」
 問われたカンクロウは、笑ってごまかした。偶然とはいえ、木ノ葉の町の人たちに我愛羅の存在が好意的に受け止められていることが、嬉しかった。
「ここの連中は、砂隠れと違って、我愛羅を恐怖の対象として見ていない。だからアイツは、普通に暮らしている。アイツにとって初めてほっとできる場所なんだ」
「…なるほどな」
 我愛羅は、砂の里では、守鶴の暴走のお蔭で恐怖の的だ。里に甚大な被害を与えたという事実もあった。そして、身を守るために我愛羅自身も威圧的で人を受け入れない雰囲気をかもし出していた。だが、今、目の前にいる我愛羅は、多くの木ノ葉の仲間に囲まれ、恐怖を感じさせるような殺気もなければ、ぴりぴりした緊張感もなかった。
「対等の仲間か…」
 それは、アカデミーでも特別部隊でも我愛羅が見つけることができなかった存在だった。人柱力であり、風影の子どもであった我愛羅は、生まれた時から何もかもが特別な存在として扱われていた。そんな我愛羅に欠けていたのは、自分と対等な存在だった。バキは、今の我愛羅の姿を亡き風影が見たらさぞや驚くことだろうと思った。


「ようこそ。リュウサ殿。お待ちしていました」
「火影様のご配慮を賜りこうして無事に到着する事ができました」
 挨拶を済ませ、箱の中から金塊が出されると、火影の表情は驚きに変わった。
「これは…」
 そこには、木ノ葉が砂の里に要求した金額よりもかなり大目の金塊が並べられていた。
「賠償金の他、木ノ葉の里の復興に対するお見舞金も持参しました。お納めください」
「砂の…合議制会議のご好意なのですか!?」
「こちらは、四代目風影様ご遺族からの贈り物です」
「…ということは…」
 ツナデは、横列に並ぶ我愛羅たちの顔を見た。無表情のまま我愛羅は、いつものように腕を組んでいた。
「お心遣いに感謝いたします」
 ツナデは、壇上から降りるとまっすぐに我愛羅たちの側に来て一礼した。
「また、大きな借りができたな」
「木ノ葉には世話になった。砂の里も木ノ葉のように人々とのつながりを大切にする里にしたい。こんな形でしか感謝の意を示す事ができないが、砂の里同様、木ノ葉の一刻も早い復興を願っている」
 それは、世話になったナルトに対する礼でもあった。無事に引き渡しを済ませると火影は、リュウサに返礼を提案をした。
「過分なるご芳志に対して、お帰りの際には木ノ葉崩しで命を落とされた砂の里の皆さんのご遺骨をお国までお送りさせていただきます。これで本当の和平が結べることでしょう」
 すでに火葬された砂忍たちの100を超える遺骨が、こうしてリュウサたちとともに故郷である砂の隠れ里に帰ることになった。そのまま打ち棄てられることも多かった忍たちの遺体は、木ノ葉においては、火葬され、一旦、寺に預けられたが、機会があればそれぞれの故郷に返還された。
「火影様、砂の里は、心からあなたのご好意に感謝する」
「末永い友好と平和を…」
 思いがけない火影の返礼にリュウサは、火影と硬い握手を交わした。それは、口には出さなかったが、砂の里の誰もが願っていたことだった。
「それでは、お集まりの皆様、これより歓迎祝賀会を大々的に開催いたします。どうぞ時間の許す限り存分にご歓談ください」
 口上を述べたのは、特別上忍のエビスだった。使節団とともに護衛の任務に当たったカカシたちや出迎えに来たキバやチョウジたちの班も参加した。
「すごいご馳走だな」
「堅苦しい我が里とは、ずいぶん違う雰囲気だな。木ノ葉というところは…」
  乾杯の後、木ノ葉の忍たちに驚いたのは、砂忍たちだった。あっという間に座は砕け、火影本人も遠慮なく杯を酌み交わしている。
「まぁまぁ一献、私が注いでやろう。ぐっと飲み干せ」
 呆然としているレキやイサゴに火影自ら酒を注ぎ、大きな声で絡んでくる。
「風影さまがオレ達に酒を注ぐなんて事はありえないけど…木ノ葉の火影さまは、フレンドリーな方だな。オレ…ちょっと木ノ葉って好きになったかも…」
「それは、オレの酒を飲んでから決めてくれ。なんといっても熱い男たちの友情は、美味い酒を酌み交わす事から始まるからな」
 ガイもまたレキやイサゴにたっぷりと酒を注いだ。上忍から注がれる酒を中忍である2人は、恭しく飲み干した。横目で見ていたバキは、咳払いをするとレキやイサゴを下がらせ、ガイに酒を勧めた。
「世話になったな」
「これはこれはバキさん…中忍選抜試験依頼ですな。…あっ、ちょっとお待ちを…。おいリー、それ、酒じゃないだろうな。ちゃんと確認して飲むんだぞ」
 ガイは、隣でジュースを飲んでいるリーに忠告すると大声で笑った。
「にぎやかだな。みんな楽しそうだってばよ」
 ナルトは、我愛羅とともに片隅でジュースを飲んでいた。
「ああ」
「オレ、お前と合同任務がやれて嬉しかったってばよ」
「…オレもだ」
「いい思い出をありがとな」
 ナルトは、我愛羅の肩に腕を回した。
「おい…ナルト。調子に乗ってオレの我愛羅にベタベタ触るな」
 カンクロウは、ビール一杯でいい気分だった。
「そうだそうだ。たまには、オレと仲良くしようぜ。我愛羅〜」
 キバもビールを飲んだらしく、顔を真っ赤にしていた。
「馬鹿やろう。触るなキバ。オレの我愛羅だぞ。チクショウ〜」
 二人は、赤丸に抱きつきながらそう叫び合っていた。
「ははっ。可笑しいってばよ。もう酔っぱらってるぜ、この二人。でも、お前には、この兄ちゃんがいるから砂の里に戻っても安心だってばよ」
 ナルトがカンクロウに妙な感心をしていると、いきなり目の前に木ノ葉丸たちが現れた。
「ついに三身一体の瞬身の術が完成したぞコレ!!見ろ、会場内だ」
「本当だ。すごい。やったわね木ノ葉丸くん」
「結構、その気になれば、できるもんなんだね」
 三人は、歓迎祝賀会に潜入できたことに得意顔だった。手にはそれぞれゴーグルとリーフパイと温泉饅頭を持っている。
「また、お前らかよ。今度は何だよ」
「砂の兄ちゃんに木ノ葉の里の土産をもってきたんだなコレ!」
「我愛羅に土産!?…あっ、もしかして、あん時の詫びのつもりなのか?」
「なかなか察しがいいな。ナルト兄ちゃん」
「あたし…砂の我愛羅さまのこと、すごく素敵だと思います。木ノ葉のリーフパイ、良かったら食べてください」
「ボクは、カンクロウさんにこれを…」
「砂漠じゃゴーグルは必需品だと聞いたぞコレ!…これは、ナルト兄ちゃんから貰った大事な物だけど砂の兄ちゃんにやるぞコレ!!」
「木ノ葉丸。お前…」
「あのひょうたんから砂がバーッと出てくるところ…すごくかっこよかったぞ。それに、火影のばぁちゃんから砂の兄ちゃんたちが、いっぱいオレたちに見舞金をくれたって聞いた。木ノ葉の事、誰よりも大事に思ってくれてるってことが分かった。だから、オレたちは、自分が一番大好きなものを贈ろうって決めた。そしてちゃんと謝って、ちゃんと感謝の言葉を伝えに来たんだコレ!」
 木ノ葉丸たちは、順番に贈り物を差し出した。
「…ありがとう」
「サンキューじゃん」
 我愛羅は、贈り物を受け取ると礼を言った。カンクロウは、子どもたちの頭を撫でた。
「じゃあまたな!」
 木ノ葉丸たちは、嬉しそうに手を振りながら、駆けて行った。
「…一番大好きなもの…か…」
 我愛羅は、貰ったナルトのゴーグルを無言で見つめた。
「アイツらもちゃんとお前の事、好きだってばよ…我愛羅」
「…ナルト…」
「そうだ。それ、ちょっとベルトが緩んでるから、貸してみな」
 ナルトは、下忍になる前に使っていたそのゴーグルを調整すると我愛羅の手に戻した。
「不思議だな。それ、使ってる頃、オレは皆に嫌われてて、いつも一人ぼっちだった。木ノ葉丸と出会ったのは、丁度その頃だった。アイツは、三代目火影の孫で、皆から『お孫様』って呼ばれてた。でも、本当は、『木ノ葉丸』ってちゃんと名前で呼ばれたかったんだ。アイツもオレも誰かに自分を認めて貰いたくていたずらばかりしては怒られた。木ノ葉丸は、オレにとって初めてできた弟分で…仲間なんだ」
「ナルト…」
「へへ…オレ、ちょっと飲み物お代わりしてくる」
 ナルトは、自分で言った言葉に照れると、グラスを持ったまま走って行った。そこに入れ替わりでやってきたのは、バキだった。
「我愛羅、話がある」
「……」
「…四代目の事…もういいのか」
「父さまは、死んだ」
…憎しみの力は、殺意の力…殺意の力は、復讐の力…
「もう終わったことだ」
 我愛羅は、穏やかな表情でそうバキに告げた。
「オレは、かつて自分がどんな姿をしていたのか知っている。川の国で、ある男に遭遇した時に気が付いた。そいつは、闇の中で孤独にもがき復讐しか見えていなかった」
……本当の孤独を知る目…そして、それがこの世の最大の苦しみであることを知っている目…言ったはずだ…お前は、オレと同じ目をしていると…力を求め憎しみと殺意に満ち満ちている目…オレと同じ己を孤独という地獄に追い込んだ者を殺したくてウズウズしている目だ……
「復讐は、空しい。オレは、木ノ葉に来て本当に望んでいたものが何なのか理解した。そして、風影になるという目標を貰った」
「ああ。聞いた。…お前が風影を目指すつもりなら、オレは、協力を惜しまないぞ」
「バキ…」
「砂の里にはまだ敵が多い。お前が戦わなければならない奴らが山程いる。そいつらをオレが排除してやろう」
「それでは、これまでと何も変わらない。恐怖や力による支配は、所詮わだかまりを生むだけだ。オレは、これまでそのことをいやというほど味わってきた。だから、オレは、別のやり方でやる。そして、努力して認められ…人々に必要とされる存在になりたい…」
「別のやり方?」
 バキは、我愛羅から発せられた言葉に驚きを隠せなかった。
「我愛羅…」
 バキは、我愛羅の前に膝をつくと、同じ高さに視線を合わせた。
「あの砂漠で見つけた小さな小僧が、いつの間にかこんな立派なことを言うとはな…」
 バキは、目の前の我愛羅をもう一度見た。一回り大きくなった我愛羅は、しっかりと意志を持って自分の足で立っていた。
「…お前には、最後まで見届けて欲しいと思っている」
「ああ。…わかってる」
 バキは、頷いた。そして、ナルトを指さした。
「あれが、お前を変えた友か」
「ああ。うずまきナルトだ」
 我愛羅は、即答した。その少年は、使節団を護衛している時も、我愛羅が守鶴化した時も、戦線を離脱した時もずっと我愛羅の側にいた。そして、誰よりも我愛羅を心配していた。
『…木ノ葉のうずまきナルトか…』
 バキは、その名前を胸に刻むと、我愛羅の決意を心から祝福した。


「う〜、食べ過ぎたってばよ」
「…無茶な勝負をするからだ」
 その後、チョウジと張り合ってナルトは、ご馳走の食べ比べを始めた。以前、サスケと競った時も腹を壊したが、チョウジの胃袋は、サスケの比ではなかった。ナルトは、アパートに帰るなりトイレに駆け込んだ。
「あ〜あ、せっかくの御馳走が…」
「何事も過ぎたるは及ばざるがごとしだな…」
 我愛羅は、コップに水を汲んだ。
「ほら…」
「…あんがと…」
 ナルトは、口を漱ぐとベッドにうつぶせた。我愛羅は、木ノ葉丸から貰ったゴーグルを額に当ててみた。
「お前、デコ広いせいか似合うってばよ」
「……」
 我愛羅は、突如、思い出したように荷物の中を探ると、取り出した小さな石をナルトの手のひらに置いた。
「何これ?」
「…砂漠のバラだ。鉱物の結晶だが、かつてオアシスがあった場所で見つかることから‘思い出のバラ’とも言われている」
「…不思議な形だな」
「それを持っていると夢が叶うらしい」
「へぇ。つまり、お守りみたいなもんだな」
「砂隠れの代表的な土産品だ。テマリが、ここに来る時に持たせてくれたものだが、ずっと忘れていた…」
「そっか。ありがとな。我愛羅…大切にするってばよ」
 手のひらに置かれた石は、透明な結晶が重なり合ったものだった。薄く砂をまとったその石は、どこか我愛羅に似ているとナルトは思った。
「そろそろ寝よう…気分も落ち着いたし…」
「ああ…。そうだな」
 二人は、背中合わせに横たわると、そのままゆっくりと眠りに落ちて行った。
 我愛羅は、穏やかな寝息を立てるナルトの側で久しぶりに夢を見ていた。そこには、白い長衣を着て色違いの傘を被った自分とナルトが立っていた。 
『…おれ達の夢だ…』
 それは、遠い未来の夢。だが、決して叶わぬ夢ではないのだと、隣でナルトが言っているように思えたのだった。


 三日後、使節団は、木ノ葉を出発した。
「道中、お気をつけて…」
 火影との挨拶をすませると一行は、正面入口から行列をなして出て行った。
「オレ達も三週間後には、予定通り里に戻る」
「ああ。お前たちの帰りを待っている」
 使節団の後ろには、砂忍達の遺骨をのせた荷車が続いていた。隊列は長くその輸送には多くの木ノ葉の忍達が割り当てられた。バキは、見送りに来ていた我愛羅に言った。
「お前のお陰だ。やっと木ノ葉で命を落とした砂忍たちを故郷の砂漠に連れて帰ることができる。皆、家族の元に帰りたいと願っていたはずだ。そして、遺族の者たちもずっと彼らの帰りを待っていた。我愛羅…皆、お前に感謝している」
「バキ…」
 白い長布を翻し弔いの鐘を響かせながら一行は出発した。死者の葬列に関しては、どこの隠れ里も襲撃を行わない暗黙のルールがあった。それは、生と死の狭間で生きる忍達共通の礼のつくし方だった。
「行っちまったな…」
「ああ…」
「オレ達ももうじき帰還だな」
 カンクロウが、我愛羅の肩にそっと手を置いた。
「……」
 別れの日の事を考えると我愛羅の心は、重くなった。
『だが、オレにはやるべきことがある』
…努力し人々に認められたい。そして、必要とされる存在になりたい…アイツのように…
 その方法は、もう決まっていたが、我愛羅は、まだ誰にも話してなかった。

 こうして木ノ葉と砂の合同任務は終わった。その日を境に木ノ葉の森は、急速に色づき始め秋の気配が深まった。それは、我愛羅たちの出立が近いことを意味した。


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