第三部 正規部隊・中忍編1

北極星(ポラリス)


 その長い廊下は、何処までも続くかのように思われた。次第に重たくなる足を引きずるようにして進み、思い切って扉を開けると、意外にもがらんとした空間が広がった。部屋の中央には、重厚な執務机が鎮座し、背後の丸窓からは、砂塵に覆われた里の風景が見えている。何もかもが以前のままだった。だが、肝心の書斎の主は、不惑の年に人生の幕を閉じ、二度とその部屋に帰って来ることはなかった。

 下忍として砂漠基地に配属されていた我愛羅とカンクロウが、一月半ばに行われる中忍選抜試験のために砂の里の私邸に戻ったのは、一昨日のことだった。そして、中一日を置いて、我愛羅は、誰に告げることなくその書斎を訪れた。薄暗い部屋で初めに目に留まったのは、窓際にある古びた椅子だった。記憶にあるその椅子は、胸の高さぐらいだったが、今は、我愛羅の膝の高さでしかない。幼い頃は、窓の外を眺めるために、よくその椅子によじ登った。そこからは、丸い建物が連なる里の光景が見えた。そして、それらを囲む岩壁の向こう側には、青い空に抱かれた砂の海が悠然と広がっていた。

「さっきから一生懸命何を見ているんだ?…何か面白いものでも見つけたのか?」
 時を忘れて眺めていると、後ろから低い声が我愛羅に話しかけた。
「父さま…」
 振り返るとそこには、仕事の手を休めた風影がいた。
「ずっと見てると、砂が波のように動くから…」
「あれは、砂丘だ…砂漠には、絶えず風が吹いているから、砂は一時として同じところに留まることはない。だから、砂漠を渡る者は、足元ではなく天上の北極星の位置を確認しながら進む。そうすれば、迷うことなく目的地へ辿りつけるからな」
 外を見ている父親の視線は、遥か遠くに注がれていた。我愛羅は、砂の形が変わりゆくさまを見ながら、本当は、そうやって、自分に話しかけてくれる父親を待っていた。若くて精悍な顔を見上げていると、それに気が付いた風影が、我愛羅を見下ろした。
「まだ他にも聞きたいことがあるのか?」
「ねぇ、父さま…あの砂漠の向こうには、何があるの?」
 我愛羅は、窓ガラスを指差すと、不思議そうに風影に尋ねた。
「それは、お前が大きくなったら、自分で確かめるといい」
 ゴツゴツとしたのど仏が上下し、我愛羅の頭の上に載せられた大きな手が、赤い髪をごしごしと無造作に撫でた。
「ボク、早く大きくなる」
「ああ…そして、オレと一緒にこの里を守ってくれ」
「うん。父さま」
 我愛羅は、嬉しそうに返事をすると再び窓の外を眺めた。その間も風影の手は、我愛羅の小さな肩に置かれていた。その手は、大きく温かかった。
「ねぇ…もう今日のお仕事は、終わったの?」
 いつまでも自分の側にいる風影に我愛羅が、そう声をかけると風影は、首を横に振った。
「オレの仕事には、終わりがないのさ。だから時々、こうしてお前の側で休憩をしたくなる…」
「もしかしてボクが、お仕事の邪魔をしてるの?」
「いや…その逆だよ」
 風影である父親は、多忙だった。私邸にいる時も、大抵は、書斎で過ごすことが多かった。我愛羅は、その部屋への出入りが許されていたため、父親が帰宅するとすぐに部屋に向かった。大抵は、傍らで本を読んで過ごした。しかし、長い時間が経つと、さすがに退屈してしまい、そんな時は窓際の椅子によじ登り外の様子を眺めた。風影は、そんな我愛羅を目の端でとらえながら、知らんふりをして仕事を続けた。
 ある時、我愛羅が外を見ながら小さなあくびをすると、珍しく風影が手招きをした。
「我愛羅…こっちに来い」
 我愛羅は、その言葉に首を傾げ椅子から飛び降りると、その傍らに跳んで行った。風影は、我愛羅に少し待つように手で合図をした後、軽く印を結ぶと、机の一番下の引き出しを開けた。
「ど…どうして、こんな大きなクマのぬいぐるみが、こんな小さな引き出しから出てくるの?」
 驚いて目を丸くしている我愛羅に取り出したぬいぐるみを無言で渡すと、風影は、また仕事に戻った。本当は、苦笑をこらえていたが、我愛羅は気がつかなかった。後日、それが、ある種の時空間忍術だった事を理解したが、風影は、決して自分から種明かしをすることはなかった。我愛羅は、そんな父親が、大好きだった。

「…今なら、あれが偽りのない愛情だった事が分かる…」
 夜叉丸の死とともに記憶にある全ての愛情が、色あせてしまった。だが、ナルトとの出会いにより、我愛羅は、再び、その温かな色彩を思い出すことができた。そうやって幸せだった頃の記憶を断片的に辿ると、体の奥底を温かいものが駆け抜けていく気がした。
「…どこでオレ達は、すれ違ってしまったのだろう…」

 忍術を教わり、修業を始めた頃、我愛羅は、突然、自身の中に封印されている守鶴のチャクラに気がついた。得体の知れない大きな力が、体の底から沸いてくるように感じられた。そして、風影を喜ばせたい一心で、ある日、巨大な竜巻を里の中で発生させてしまったのだ。気がつくと里は、鋭い爪で引き裂かれたように真っ二つに分断され、いつも眺めていた丸い建物の姿がなくなっていた。破壊された建物の中には、沢山の人々が住んでいた。里は、大騒ぎとなり、我愛羅の仕業であることが分かると父親である風影は、上役たちから一斉に非難された。
「お前の中には、砂のバケモノ、守鶴が封じ込められている。やはりお前は、‘災いの子’だった。皆が恐れていたことが、ついに起こってしまった。お前は、砂隠れを守るどころか、その凶暴な力で里を破壊してしまったのだ」
 その事件の直後、廊下ですれ違った上役の1人が、我愛羅を見つけるとそうののしった。その目は、冷たく、憎悪と殺意に満ちていた。
「…守鶴って何なの?ボクの中にバケモノがいるってどういうこと?」
 驚いた我愛羅は、新しく世話係になった叔父・夜叉丸の元に逃げ帰った。
「一体誰が、そんな事を…」
「…ガレキっていう上役のオジさんがそう言ったよ。…ねぇ、本当なの?」
「我愛羅さま…」
「ボクは父さまの子供じゃなくて、本当は、バケモノの子供だったの?隠さないで教えてよ。夜叉丸」
 夜叉丸は、興奮している我愛羅を椅子に座らせると、床にひざをついて視線を合わせた。黒く縁取られた翡翠色の大きな瞳からは、すでにぽろぽろと涙がこぼれ落ちていた。
「落ちついてよく聞いてください。…いいですか。我愛羅さまは、私の姉さんと四代目風影様の間に生まれた三番目の子供です。あなたは、私にとっては、可愛い甥っ子でもあります。…どうしてそれ以外の者だと思うのですか?」
「だって…だって…」
「確かにあなたの中には、この里の未来のために、風影様と姉さんが願いを込めて、ある秘密の力を封印しました。でも、それは、この里とあなた自身を守るための大切な力なのです。守鶴と呼ばれるその力は、大きなチャクラの塊で、尾獣とも呼ばれています。あなたは、その聖なる力と共鳴した大切な存在なのですよ」
「ボクが、大切な存在!?」
「ええ、特に風影様にとってはね…」
 夜叉丸は、我愛羅の母親とそっくりな顔で微笑した。
「ボクが、父さまにとって…特別?」
「ええ…そのとおりです。どうかそれを忘れないでください」
 夜叉丸は、我愛羅の涙を布で拭くと、そのほほを温かい手のひらで包んだ。母親と同じすみれ色の瞳が、揺れていた。
 だが、その温もりは、やがて我愛羅が六歳になった満月の夜に失われてしまった。

 再び、廊下ですれ違った上役のガレキが、夜叉丸に代わって我愛羅に別の存在理由を告げた。
「お前の父親は、風影になるために自分の息子をバケモノの生贄として差し出した。だが、残念なことに守鶴の暴走を抑えられんお前は、やがて父親を風影の座から引きずり降ろすだろう」
「ボクが、…父さまを風影の座から降ろす…」
「厄介者め…さすがに今回は、風影もお前を疎ましく思ったらしいな」
…だから…だから父さまは…急にボクを殺そうとしたのか…
 夜叉丸の死後、我愛羅は、父親の仕打ちに困惑していた。そして、周囲の心ない言葉が、幼い我愛羅に自分の置かれた立場を自覚させた。
『父さまは、オレを見張るためにこの部屋への出入りを許していたんだ。オレを愛していたからではなく…監視するために…』
 それまでに与えられた愛情は、全て偽りであり、語られた言葉は、皆、嘘で固めたものだった…。我愛羅が、辿りついた結論は、関わった者が皆、自分を裏切っていたという悲痛なものだった。
 それからは、何処に居ても守鶴を発動させるたびに、遠くの部屋にいる父親の神経がぴりぴりと苛立つのを敏感に感じた。また、里のいたるところでささやかれる陰口が、砂を通して感知された。
…ボクは、何のために生まれてきたのだろう…
 自分の存在理由を考えれば考えるほど次第に我愛羅は、耐えきれなくなり自分の殻に閉じこもるようになった。
 そして、あの‘声’を聞いた。
『大丈夫だ。我愛羅、お前の側には、いつだってオレがいるから…苦しい時は、オレを呼べ…』
「誰?…誰なの?」
『オレは、守鶴…お前の中にいるもう一つの大きな意志だ…』
「お前がボクの中にいるバケモノなのか?」
『いきなり失敬なヤツだな…オレは、大いなる力…常にお前と共にある…オレは、人間と違ってお前を傷つけたりはしない』
「本当に?…絶対にボクを裏切ったりしない?」
『ああ…それどころか、オレは、お前に力を与えてやれる』
「ボクに…力をくれるの…?」
『そうだ…そうすれば、もう誰もお前を傷つけることはできない…この世界は、お前にひれ伏す』
 守鶴の力を使い、自分のためにだけ生きる…そうすれば、もう誰からも裏切られる事も傷つけられることもない…
 我愛羅は、内なる力と共鳴すると、外部の人間に対して心を閉ざした。そして、誰もが心の奥底で待ち望んでいたように、里の最終兵器と呼ばれる恐怖の存在となった。

「…ナルト…お前と出会うまで、オレは、ずっと一人だった。だが、本当は、待っていたんだ。あの小さな丸窓から外の世界を見ていた時のように…こうして誰かが声を掛けてくれる事を…」

…一生懸命何を見ている?…面白いものでも見つけたのか…?

『…ああ…父さま。オレは、仲間を見つけた…そして、生きる目標を見つけた…』
 それは、大地にしっかりと根付いた一本の若木で、例え強い風が吹いたとしても容易に形を変えることはないだろう。そして、天の北極にある星のように、不動の存在として我愛羅を目的の場所まで導いてくれるはずだ。

…ねぇ、父さま…あの砂漠の向こうには、何があるの?…
…それは、お前が大きくなったら、自分で確かめるといい…

『…砂漠の向こう側には、青い瞳をしたナルトがいた…オレは、確かにアイツと出会ったんだ…』
 二人は、今、同じ目標を追いかけていた。ナルトは、火影に、我愛羅は、風影になることを目指して…。
『オレは、努力して里に必要とされる存在になる。あの日…あなたと約束したように…』
「…さようなら。父さま…」
 我愛羅は、父親に別れを告げると、その執務机にそっと手を置いた。
「なんだ。やっぱりここだったのか。探したじゃん」
 そこにドアを開けて入ってきたのは、カンクロウだった。
「もう出る」
「やはりバキの言うとおりだったな」
「……どういうことだ?」
「オレが、お前を探していると言ったら、アイツが、親父の書斎だろうと教えてくれたんだ」
「………」
「オレは、絶対そんな事ないって思ったんだが…バキは、お前は、間違いなくここだって笑ってたじゃん」
「…そうか…」
「でも、何で今更ここなんだ?…親父との事は、思い出したくないはずだろ?」
「…けじめをつけようと思ってな…」
「けじめ?」
「オレも風影を目指すと決めた以上、過去の憎しみとも決別するべきだと思ったのだ」
「ふうん。…それで、できたのか?」
「いや…。よくわからない。だが、いろいろと思いだした。良いことも悪いことも…」
「そうか。…そうだろうな。人の心は、複雑だ。お前が、体験したことは、お前にしかわからない。親父を許せなく思ってたとしても当然だ。そうそう何もかもわりきれるもんじゃない。…オレは、それでいいと思う。お前が、心の底から親父を許したくなるまで無理をする必要なんてない」
「…そうだな…」
 カンクロウは、我愛羅の心の痛みを推し量ると、気分を変えさせようと部屋をぐるりと見渡した。そして、書棚の一番下にある本を手に取った。
「懐かしい本じゃん。オレが、ガキの頃に読んだヤツだ」
 それは、子供たちが手に取りやすいように当時と同じように低い位置にあった。
「それならオレも読んだ記憶がある…」
 我愛羅は、カンクロウが手にした本の表紙をちらりと見るとそうつぶやいた。それは、子供用の忍術の絵本で、重厚な背表紙が並ぶ風影の書斎には似つかわしくない代物だった。子供たちの出入りがなくなってからも、風影は、ずっとそのままにしていたようだった。そして、何気なくカンクロウがページをめくっていると、中から一枚の写真が落ちた。
「写真だ…うわっ、これお前じゃん…すげえ可愛い。…お…これって親父?…もしかして、笑ってる?」
「……?」
 我愛羅には、その写真を見た記憶がなかったが、そこには、こぼれんばかりに緑の瞳を見開いて若い父親と本を読んでいる幼い我愛羅の姿が写っていた。
「お宝発見だな。後でテマリとバキに見せようぜ。アイツら、広報用にお前の小さなころの写真を探していたからな」
「…バカ…やめろ」
 我愛羅が照れて写真を奪い返そうとすると、背の高いカンクロウは、腕を高く掲げ、それを阻止した。
「…返せ」
 我愛羅が、下から睨むと、カンクロウは、それを何気にひっくり返した。
「おい。待てよ。なんか書いてあるぞ」
 裏面には、日付の他に走り書きがあった。
「父さまの文字だ」
「ああ。本当だ。えっと…」
「見せろ」
「ほら」
 カンクロウは、観念して我愛羅にその写真を手渡した。

“風の意志を共に背負う我愛羅と…”
      ○△年1月19日 

「これ、お前が5歳になった日の写真じゃないのか?」
「……そうらしいな」
 風影は、それから7年後、我愛羅が12歳になった年に大蛇丸に殺された。その遺体は、流砂に埋もれ、木ノ葉崩しが失敗に終わってから発見された。
「親父って、こんな顔して笑うんだ。オレには、憮然としている顔しか記憶にないが…」
「…オレもずっとそうだった。この写真を見るまでは…。父さまは、お前と似ていた。…笑い顔や…ちょっとしたしぐさが、今のお前そっくりだった。…オレは、そんな父さまが、大好きだったんだ…」
「我愛羅…」
 妻を死なせ、父親であることをやめ、息子を捨ててまで、里のために生きた風影の最後は、悲惨だった。それは、生きていた間の功績とは不釣り合いなものだった。二人の側近が、黄泉への旅路に付き添ったが、不条理なことには変わりなかった。我愛羅は、もう一度、写真を見ると、その顔を誰よりも知っていたのが、自分だったことに唇を噛んだ。
…我愛羅…こっちに来い…
 我愛羅は、ふいに誰かに呼ばれたような気がして顔をあげた。すると執務机の上に置かれた日記が、目に飛び込んできた。引き寄せられるように近づくと、それを手に取ろうとした。そして、途中で我に帰った。その様子に気がついたのは、カンクロウだった。
「どうした?…あれ?…変だな。…さっきまで、そんなもの、そこにはなかったぞ」
「ああ…突然、現れた」
「もしかして…トラップか?」
 カンクロウは、我愛羅に代わってそれを手に取ろうとした。
「やめとこう…」
「なんでだよ。親父が、何考えていたか知るチャンスじゃん。お前だって知りたいだろ?…いろいろと…」
「ああ…。…だが、今は、まだその時ではない」
「我愛羅…」
「父さまは、この里の為に四代目風影として生きた人だ。だから、その日記に書かれた風の意志を受け継ぐのは、次代の風影の役目だろう」
「…我愛羅」
「お前の言う通り、先程まで執務机の上には、何もなかった。おそらく父さまは、自分がいなくなった時のことを考えて、予めこの部屋に何か仕掛をしておいたのだろう」
「…親父の仕業か…」
 カンクロウは、父親に関しては、なんだかんだと言っても我愛羅の方がよく知っているようだとため息をついた。
「…父さまは、昔から、人を驚かせるのが、好きな人だったから…」
「へえ…そんな茶目っけがあったとは意外じゃん…」
「……」
「わかったよ。…これは、お前が風影になってから読めばいい」
 カンクロウは、その日記を机の引き出しに入れた。我愛羅の手の中には、あの幼き日の思い出の写真が握られていた。夜叉丸が亡くなった夜、全て破棄してしまい、今となっては、それが、唯一、父親と過ごした日々の記録だった。
…人は、そう簡単には嫌いになったりできないものですよ…
  夜叉丸の言った言葉が思い出されると、我愛羅は、もう一度、その写真を眺めた。父親からは、憎まれているとばかり思っていたが、そこに写っているのは、まぎれもなく愛しそうに我愛羅を見て笑う父親の姿だった。

「おい。お前達、そんなところで何やってるんだ。食事の時間ぐらい、覚えておけ」
 我愛羅とカンクロウは、部屋に戻る途中で二人を探していたテマリに出会った。
「ボロ屋敷の点検だよ。…なぁ、我愛羅」
「ったく、砂漠基地から帰ってから、ますます我愛羅にべったりだな」
「オレは、我愛羅を護衛してるだけじゃん」
「なんで自分の家の中まで護衛する必要があるんだ」
「いいじゃん。別に…オレの勝手だろ」
 我愛羅の横で、いつものようにテマリが、カンクロウに小言を言っていた。
「……」
 我愛羅は、三人でいる心地よさを感じながら、もう一度、今歩いてきた方向を振り返った。
『…オレが風影になる日が来たら、あの日記を再び手に取ろう…あの人が、風影として何を思い、何を願っていたのかを知るために……自分の幸せを犠牲にして、ただこの里を守るために風影として生きた父…だから、オレも、息子としてではなく、砂隠れの風影として、風の意志を受け取ろう…そうすれば、きっとオレは、あの人の苦しみを理解し、許すことが出来るだろう…』
 いつの間にか日が暮れたらしく、里は、すでに暗闇に包まれていた。我愛羅は、廊下の丸窓から見える夜空から、いつものように北極星を探した。こぐま座の尻尾の位置にあるポラリスと名付けられたその星は、側に龍座を従えて、昨日と同じ場所で輝いていた。
…砂漠を渡る者は、足元ではなく天上の北極星の位置を確認しながら進む。そうすれば、迷うことなく必ず目的地へ辿りつけるからな…
 我愛羅は、あの日の風影の言葉を思い出すと、北の空に輝くその星を見つめた。


小説INDEX   砂の城壁・前半

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