辺境警備5-1 塵旋風


新たなる脅威

「そんなに簡単に彼の罪を許してしまってもいいのですか?あなたは、全てを失ったというのに…」
「お前たちは一体…」
 秋風が吹き始める頃、第三中央方面砂漠部隊基地の部隊長であるウエシタの元に二人の忍が接触してきた。ウエシタは、そのうちの一人の顔に見覚えがあった。
「赤砂のサソリ?…いや、そんなはずはない…」
「フフ…オレだよ。ウエシタ。覚えていてくれたとは嬉しいな」
「そんな馬鹿な…サソリなら、オレとさほど年が変わらぬはず…」
 ウエシタの前に現れたサソリは、失踪当時と同じ姿をしていた。本来ならすでに齢30を越しているはずなのにその姿は、まるで十代の少年のままだ。天才造型師・天才傀儡師として名をはせたサソリは、戦闘においても一人で小国を落とす逸材だった。だが、ある日突然、失踪した。その理由は、謎だった。それが、長い歳月を経て再び当時の姿のまま現れたのだ。
「そうそう、こいつは、カブト。オレの部下だ。今回の任務の連絡係を務める。よろしくな。ところで、ここに来る途中、砂の里に立ち寄ってみたが、あのチビの由良が最年少で上役になっててて驚いたよ。出世したものだ」
 サソリは、意味深な笑いを浮かべると、ウエシタの最も気にしていることをチクリと刺激した。
「何が言いたい?」
「わかってるんだろ?」
「……」
「砂隠れは、権力闘争で活気づいている。五代目風影の座に風使いのテマリを据えるだの、傀儡部隊のカンクロウを押すだのとな。そうそう、あの人柱力の我愛羅の名も挙がっているそうだ。…まぁオレにとってはどうでもいい事だがな…」
「…人柱力の我愛羅を風影にだと?…それは、まさかバキの企みなのか?」
「バキ?ああ…そんな奴もいたな。確かお前の同期だった大男だ。…なかなか面白い発想じゃないか。人柱力を手なずければ、砂隠れを一気に掌握できるからな。合議制会議などという七面倒な制度も廃止できる」
「…独裁…支配か」
 ウエシタは、動揺した。確かに我愛羅は、こう言った。
…生き方は変えられる。己が変わりさえすれば…オレは、元々、この砂隠れを守るために作られた人柱力だ…
…オレは、この手につながる大切な者たちを守りたい…
『この手に…つながる…者たち…』
 ウエシタは、その言葉に呼応するようにじっと自分の両手を見た。だが、どんなに目を凝らしてももうその手の先には誰の姿も見えなかった。三年前、ウエシタの手は、双子の息子たちの未来と繋がっていた。そして、家族のいないバキは、この辺境の地でのんびりと砂嵐を見ていた。だが、砂漠に我愛羅が現れて以来、彼らの境遇は一変した。そして、ウエシタは全てを失い、バキは我愛羅を連れて砂隠れに帰還した。(※第一部「復讐者(砂漠放浪3)」)
『バキは、四代目風影の許しを得て再び側近の一人として迎え入れられた。なのに…』
「風影不在の砂隠れは、今、次期風影として誰を担ぐかで戦々恐々としている。オレたちは、その中でも新興勢力と言われている反四代目を名乗る一派から依頼された。そいつは、人柱力である我愛羅から守鶴を抜き取り、次の人柱力を育てるつもりだ。お前が協力すれば、依頼主は、次回の上役選挙に推薦すると言っている。どうする?このまま、砂漠基地で一生を過ごすつもりか?」
「………」
「恐らくこれがお前にとっては最後の機会となるはずだ。決心がついたら、第123基地に伝書鳥で知らせろ」
 サソリは、ウエシタに嫉妬の種火と契約書を手渡すとその場から姿を消した。
「…最後の機会だと?…オレの人生は、まだ半ばに差し掛かったばかりだ…」
 ウエシタは、机の上の契約書と壁に掛けてある写真を交互に見ながら思わず机を叩いていた。小窓からは、かすかに立ち上る砂塵が見えていた。


後継者

「私を風影にだと?」
 テマリは、思いもよらぬ申し出に大声を出していた。
「何もそう驚くことはなかろうよ。風使いの皆の総意は、随分前から決まっておった。知らぬはお前さん本人だけだ」
 穏やかに微笑みながらそう答えたのは、相談役のエビゾウだった。
「そんなこと一度だって考えたことがない。私は、我愛羅を風影にしようと考えているんだ。だから、そっちに協力してくれ」
「何度も言うようだが、人柱力は、管理すべき存在だ。統治者にはなれんよ。どこの誰がいつ暴走するともしれぬものを風影に押す?無理な話だよ。この先、我愛羅が守鶴を完全に制御し、里を守れるようになれば、その選択肢もありうるかもしれんが…今は、まだ無理だろ。ならば、アンタが風影となり我愛羅を兵器として用いるしかない」
「私は女だ」
「ほほぉ。これは、またいつものアンタらしくもないことを…。五大国最強と言われる木ノ葉隠れの火影は女性じゃなかったかな?ならば、砂隠れに女の風影が誕生したとしてもおかしくはなかろうよ」
「だが…」
……生涯に渡って我愛羅の監視と護衛を命じる……
 テマリは、幼い頃からずっと父である四代目風影にそう言われ続けてきた。人柱力の我愛羅を守る事、それが自分たち姉弟の役目だと思っていた。しかし、四代目風影の急死によってテマリたちを取り巻く状況は一変した。
「今度の上役選挙で3分の1の人間が入れ替わる予定だ。傀儡部隊は、カンクロウを、ワシら風使いは、アンタを風影にする公約を掲げる」
 現在、砂の里を統治しているのは、上役9名と相談役のチヨやエビゾウで構成する合議制会議だった。そして、風影は、合議制会議の満場一致で決定された。今回のように複数の風影候補が台頭する場合は、決定は最長三年まで持ち越される仕組みになっていた。統治者である風影とその政権を支える合議制会議との二重支配は、三代目風影の失踪がもたらした弊害でもあった。
…オレもいつか誰からも必要とされる存在になりたい。…恐るべき兵器としてではなく…砂隠れの風影として…
 我愛羅が、正規部隊に入隊したいと言い出した時、テマリはカンクロウ以上に反対した。だが、我愛羅は、自分の意に従い辺境の砂漠基地へと旅立った。
…一人きりの孤独な道に逃げずに…砂の一人の忍として風影を目指す…オレがこの里に繋がり生きるために…
『うずまきナルトとの出会い…それが、我愛羅を変えた』

…お前たちを姉弟と思ったことはない…
…オレの邪魔をすれば、殺す…

『私たちは、長い間、気が付かないふりをし我愛羅を避けてきた。…あの子の苦しみや孤独…そんなものに心を傾けることはなかった…』

…テマリ…カンクロウ…済まない…

『違う…謝るべきは、私たちの方だ…』

「私は、何としてでも我愛羅を風影にする。そう決めた」
「ふむ。アンタも頑固者だな。まぁ、そんなところは、父親似かもな。焦らずとも時間はたっぷりある。五代目風影の誕生は、早くても三年後。その間に状況が一変する可能性もある」
「状況が一変?」
「新たな勢力の台頭だな。万一、そこから風影が誕生すれば、ワシらは旧勢力として粛清されるはずだ」
 エビゾウは、不吉な言葉をさらりと言った。そして、細い目を硬く閉じた。
「…身内で争ってる場合じゃないな…」
 テマリは、ため息をつくとその足でバキの部屋に向かった。


「オレが五代目風影?…ありえないじゃん」
「馬鹿者。お前は、四代目風影の長男じゃ。普通に考えても跡取りじゃ」
「そんなことより、新しい毒の調合を教えて欲しいじゃん。この間教わったのは、効き目が弱すぎだ。もっとこう継続時間の長いヤツがいい」
「目先の事ばかり気にしおって…。なげかわしい。男ならもっと野心と気概を持て!」
「…ちっ。もう聞き飽きたってえの…」
 カンクロウは、口を開けば五代目風影になれとごり押しする老女に閉口していた。
「なら言わせてもらうが、目下オレの野望は、我愛羅を風影にすることじゃん。チヨバアも協力してくれ」
「また、その話か。愚か者め。人柱力は、風影になどなれぬと何度も言い聞かせたはずじゃ。それよりこれを見よ」
 チヨは、100名の傀儡使いに無理やり書かせた推薦書をカンクロウに突きつけた。
「なんだよ、これ…」
「お前を支える清き一票じゃ」
「力づくで書かせたくせに…」
 カンクロウは、昼間、この推薦状のお蔭で散々傀儡師たちに嫌味を言われたのだ。すべては、チヨの強引なやり方が原因だった。
『勘弁してくれよ…マジ…オレは、アンタの孫の‘可愛いサソリ’じゃないってえの…』
 チヨの身内は、すでに弟のエビゾウしかいなかった。息子夫婦は、先の戦争で亡くなり、忘れ形見の孫のサソリも、チヨの元から去った。残っているのは、カンクロウとの師弟関係という絆だけだった。
『チヨバアは寂しくてたまらないんだ。…だからこそ自分と大勢の人々をつなぐ権力という絆を欲している。…だけど、オレには我愛羅やテマリという家族の絆がある…』
「悪いけど、オレは、チヨバアの傀儡にはなれない。利用されるのは、御免じゃん」
「利用だと?ワシがお前を操るとでも思っておるのか?見くびるでない!ワシは、師としてお前を立派な忍に育てたいだけじゃ!」
 チヨは、顔を紅潮させたままバシバシとカンクロウを推薦書の束で叩いた。はたから見れば、仲のいい祖母と孫に見える二人だった。
「痛いって!!それにそんなに怒ると血圧が…」
 カンクロウがチヨの元に預けられたのは、我愛羅が生まれた直後だった。母親のことは、あまりにも幼すぎて覚えてはいなかった。チヨは、そんなカンクロウにとっては、母親代わりとも言えたが、サソリの時のように決して甘い言葉はかけずカンクロウを弟子として扱った。厳しい指導にカンクロウは、何度も根を上げたが、他に帰るべきところもなく我慢し続けた。時折、エビゾウと共に訪ねてくる姉のテマリに会うことはあったが、テマリもまたカンクロウに対して優しい言葉をかけることはなかった。そんな彼らが、父親や我愛羅に対面できるのは、風影邸で公式の行事が開かれる時だけだった。子どもの頃のカンクロウにとっては、家族という絆はチヨとの師弟関係以上に薄いものだった。

…たまには兄貴の言うことも聞いたらどうなんだ…
…お前らを兄弟と思ったことはない…邪魔をすれば、殺す…

『そうだ…オレは兄貴として何もしてこなかった。長い間、我愛羅の存在も知らずに育てられた。そんなオレが、突然兄貴面したところで弟がオレの言う事なんか聞くはずがなかった…だから今度こそ…』
「オレは、我愛羅を助けたい」
『風影になることで我愛羅がこの里で生きていく事ができるのなら、オレはその夢を叶えてやりたい』
「頼むからもう、帰ってくれ」
 カンクロウは、チヨの小さな体を抱え上げると部屋の外に追い出した。そして、内側から鍵をかけた。
「師匠に対してなんたる無礼!!今に見ておれ。ワシは、あきらめが悪い。必ずお前を風影してみせる。そして、それをワシの忍としての引退の花道とするのじゃ!!」
 チヨは、カンクロウの部屋に向かって大声で宣言すると、鼻息荒く帰って行った。すでに頭の中では、壮大な計画が渦巻いているようだった。
『そんなに風影になりたきゃ、自分がなればよかったのに…』
 嵐が去ったことを確認するとカンクロウは、大きなため息をついた。

「…サソリ何処に居るのじゃ?…」
 チヨは、廊下を歩きながら窓の外から空を見た。
…チヨバア様…後でお菓子を買ってくださいね…
…サソリはいい子じゃな…
 手のひらには、今も小さな手の感触が残っている。チヨを見上げる瞳は、宝石のようにきらきらと輝いていた。
…父様と母様は、いつ帰って来るですか?…
…もうすぐじゃ。いい子にしてれば、すぐに帰ってくる…

…はい。チヨバア様…ボクいい子にしてますね…

…チヨバア様…
…忙しいから話は、後でな…

…チヨバ…
…後で、後で…ああ、忙しい、忙しい…

…チ…
………………

……
…………………

…ずっと本当の事が言えず、あの子を避けるようなまねをした……やがてサソリは、そんなワシに何も言わなくなった…もう二度と両親が帰ってこぬ事を悟ったのじゃろう…

…悲しみを分かち合い…一緒に泣くこともできたのに…

「…生きているなら、もう一度、姿を見せておくれ…」
 砂の里に留まってさえいれば、今頃、サソリは風影になっていたかもしれない。若くして才能を開花させ、傀儡部隊の隊長を務めた。そして、三代目風影の側近として寵愛された。
「今もきっと何処かで生きているはず。強いあの子が、そう簡単にくたばるわけがない。だが、ワシの情報網を持ってしても未だに見つからぬとは…」
 傀儡部隊から風影を出すこと、それは、チヨの悲願でもあったが、いつも何処かに孫のサソリが帰ってくる想定で考えていた。


 カンクロウが、バキの部屋を訪れた時、すでにテマリの姿がそこにあった。
「チヨバアさまは、オレを風影に、エビゾウジイさまは、テマリを風影にってか…」
「御姉弟のお考えも理解できる。幼かったお前たちを風影様の元から引き取り育てたのだ」
「一番弟子の出世を望んでるわけだ。…だが、なぜあんなに我愛羅が風影になることを反対するんだろう?」
「チヨ様の場合は、ご自身の保身からかもしれん。我愛羅に守鶴を憑依させた責任、そして、失敗。その結果、暴走する我愛羅を真っ先に処分しようと言い出したのもチヨ様だからな」
「…処分って…」
「チヨ様にとっては、我愛羅は尾獣のチャクラを封印した人傀儡だ。だが、知っての通り尾獣の制御は容易ではない。チヨ様は、そのことでひどく合議制会議や里の人々から責め立てられた。庇ったのは、四代目風影様だ。そして、我愛羅に刺客を差し向けることで合議制会議と里の人々を牽制した。それは、同時に我愛羅に守鶴のコントロールの仕方を学ばせる方法でもあったようだ。…それが風影として最善の策であり、父親としての愛情の示し方だったのだ」
「愛情?そんなの愛情なんかじゃないだろ!!実の父親から命を狙われ続けた我愛羅がどれだけ苦しかったかアンタはわかって言ってるのか?…親父は、風影の座が惜しくてオレたち家族を犠牲にした鬼だ」
「カンクロウ。バキ先生に当たるな」
「…チッ……」
 テマリは、珍しく血相を変えているカンクロウをいさめた。バキもまたカンクロウが弟の境遇に腹を立てている様子に苦笑した。
「どうやらお前たちは、本気で我愛羅を風影にしようと思ってるらしいな」
「ちっ…何言ってやがる…今更じゃん」
「すまん。確かめたくてな。ついでにお前たちの誤解を解いておくとしよう」
「誤解?」
『‘心配性のバキ’オレの息子を頼む…』…これが、風影様がオレに残した最後の言葉だ」
「…えっ?最後って…」
「お前たち三人が特別部隊を組んだ時だ。そして、中忍試験が始まる前、オレたちは、里に呼び戻された。だが、その時、風影様はすでにこの世におられなかった」

…‘心配性のバキ’オレの息子を頼む…
…風影様も御身、お大切に…薬も過ぎれば、毒になります…

「最後にお会いしたとき、風影様は、ひどく疲れているようだった。翌朝、暗いうちから部下二人を引き連れて砂漠に向かわれた。…そして、亡くなられたのだ」
「大蛇丸に嵌められたってわけか…」
「そうだ。オレたちがそれに気づいたのは、全てが終わった後だった…」
「…だからそれが最後の言葉ってわけか」
「ああ。そういうことになる」
「………」
「………」
 バキは、黙り込んでしまった二人の肩に手を置いた。
『…本当は、これはあなたの役目だったのに…』

 人柱力となった弟・我愛羅を支えるテマリ、カンクロウ…特別部隊として三人を預かった当初、バキは、何かにつけいがみ合う彼らをしかりつけた。一番厄介なのは、我愛羅とカンクロウの関係だった。彼らは、水と油のようにあらゆる場面で対立した。カンクロウは、兄としての威厳を見せようと必要以上に威張って見せ我愛羅の失笑を買った。我愛羅は、我愛羅でカンクロウを馬鹿にし事あるごとに砂で威嚇した。テマリは、我関せずの傍観者を気取っていた。作戦遂行時も同様で各自が好き勝手に戦った。
『スリーマンセルの基本がわかっているのか。お前たち。アカデミーで何を習った!!』
『関係ない。オレは、一人で戦える。こいつらは、邪魔だ』
『獲物は、見つけたもん勝ちでいい。オレは、シナリオに口出しされるのは御免じゃん』
『私も面倒は嫌いだね。さっさと殺っちまえば済む』
 それでも彼らは、個々に秀でた実力があり、負けることはなかった。

『…それが、弟の夢をかなえてやりたいだと?大した進歩だ…』 
 バキは、成長した二人に心からの賛辞を贈った。
「ところでバキ先生。親父が死んでからも我愛羅に刺客が差し向けられた本当の理由は何だ?」
 カンクロウは、ふと火影の御前試合の会場に差し向けられた四人の刺客の事を思い出した。あれは、明らかに我愛羅を殺そうとした者たちの仕業だ。
「風影様亡き後、砂隠れには我愛羅の暴走を止められる忍はいなくなった。合議制会議が、国外で我愛羅を始末しようとしたのだ。だが、計画は失敗、お前たちは、帰ってきた。オレは、止めることができなかった。その権限がないからな」
「上役たちが多数決で我愛羅を排除しようとしたって事か…」
「そうだ。これが今の合議制会議だ。このままでは、どんなに我愛羅個人が頑張っても風影にはなれない。合議制会議のメンバーを入れ替え、我愛羅を容認する者たちで固めることができて初めて我愛羅は風影になれる。それが、砂隠れの政治のシステムだ。…そして、それは、オレたち大人の仕事だ」
「政治か…。確かシカマルもそんなことを言ってたな」
「シカマル?奈良シカマルか?なんでアイツの名がここに出てくるんだよ」
 カンクロウは、テマリの顔を覗き込んだ。
「か…勘違いするな。シカマルには…以前、ちょっと相談しただけだ。バカ」
「バカって…こんな大事な事、何であんな部外者と話すんだよ…我愛羅に関することなら真っ先にオレに相談するべきじゃん」
「ちょっとIQ200の男の頭の斬れ具合を知りたかったんだ。ひがむな」
「ちっ…なんだよ。それ…」
「シカマルは、いずれ木ノ葉の参謀になる男だからな。まぁ、火影になるつもりのナルトがアレだから、足りない分を補うのにちょうどいいはずだ。確かこんなことも言ってた。『万一新しい勢力が覇権を握るようなことになれば、お前らは皆、粛清されるぞ』って…」
「不吉なことをあっさり言いやがって…新しい勢力?粛清っ?なんだよ。それ」
「そして、私は、さっきエビゾウ様が同じことを言うのを聞いた」
「やはりみな同じ意見のようだ。反四代目風影派…つまり上役会議でも絶大な発言権を持つガレキの様な一派が覇権を握れば、オレたちは邪魔になるってことだ」
 バキは、自分の考えが正しいかったことを確信した。初代風影から四代目風影までは、直系でないまでも同族だった。長い間の安定政権が、今日の風使いや傀儡使い、砂使いなどの忍術の発展をもたらした。そして、その結果、大名に砂隠れを風の国の隠れ里ととして公認させた。
「ガレキ?あいつは、確か親父の側近の一人じゃなかったか?」
「元々は、三代目風影の側近だった男だ。表向きは四代目に仕えるふりをしてたが、四代目候補に名乗りを上げていた。だから合議制会議でも四代目のやり方によく異を唱えてたし、最も牽制しなければならない上役だったんだ」
「なら親父が死んで一番得したのは、ガレキってことか…」
「そうだな。以前から良からぬ噂もあった。…あの音の大蛇丸を引き入れたのは、ガレキではないかとな…」
「なら、親父を謀殺したのもガレキなのか?」
「証拠がない。だが、いずれ真相は明らかになる」
「もはや我愛羅だけの問題ではないってことか」
「そういうことだ」
 事態の深刻さにいつの間にかカンクロウやテマリの顔から笑顔が消えていた。
「大蛇丸は、親父の仇だ。いつか私が殺す」
 バキの話を聞き終えてテマリは、改めて拳を握った。そして、見えない脅威が迫っていることに身震いをした。
「まずは、情報を集めることだ。…我愛羅にとって有利な情報は、敵にとって不利な情報となる。…すべては、そこからだ」
 バキは、カンクロウやテマリに命じると退席させた。そして、その場にはいないもう一人の砂の家族を想い浮かべた。
『…夜叉丸…見ているか…アンタの我愛羅が今、風影になろうとしている…』
 幼いころからアカデミーで机を並べともに成長してきた友の名をバキは、心の中で呼んだ。
…ねぇ。バキ…君のその勇気と行動力を将来、僕の我愛羅様の為に使ってはくれませんか?…
 夜叉丸の自決を察したバキは、ただちに作戦中止を四代目風影に進言した。しかし、それは聞き入れられず、バキは砂漠基地へ左遷された。
『…夜叉丸…オレは、アンタの分まで生きる。そして、我愛羅の成長を見届ける…』
 それは、バキと夜叉丸の約束であり、バキと四代目風影との約束でもあった。
…‘心配性のバキ’……オレの息子を頼む…
『はい。…風影様…今度こそ…オレは、あなたのご命令に従います』
 すでにあれから長い年月が経っていた。バキは、過ぎ去った日々と思い出になってしまった人を忍びながら、心の中で二人との約束を誓った。


 小説目次    NEXT「辺境警備5-2〜塵旋風」

Copyright(C)2011 ERIN All Rights Reserved.