辺境警備5-3〜塵旋風


偽りの夢

「綺麗な月だね」
 展望台で見張りをしている我愛羅に声をかけたのは、メガネをかけた青年だった。通常は、三人一組で行う夜勤を今晩は我愛羅一人で行っていた。
「すまないな。僕の部下たちが、慣れない環境のせいで体調を崩しちゃって。代わりに僕が来たんだけど上がってもいいかい?」
「…構わない」
「ここは素晴らしく星がよく見える」
 梯子を登って来た青年は、我愛羅の横に座ると親しげに笑った。
「僕は、今度の異動で東の砂漠基地から来たカブトだ。よろしく」
 我愛羅は、差し出された手を取るでもなく月を見つめたままだった。
『どうやら君は僕のことなんかまるで覚えてないようだね。ついこの間も川の国であったばかりなのに…。まぁ、興味のないものは眼中にないってのが中忍選抜試験からの君のルールだけど…』
 カブトは、横から我愛羅を見つめたが、我愛羅は、前を向いたままだった。
「差し出した手は、握り返してくれると嬉しいね。このままじゃ引っ込みがつかないだろ?」
 カブトは、そう言うと強引に我愛羅の手を握った。
「っ…」
 その瞬間、砂煙が舞った。
「これが噂のオートの砂だね。でもちよっと遅かったみたいだ」
「お前…何者だ」
 我愛羅は、右腕に刺すような痛みを感じた。
「ナノサイズのチャクラ針…砂の間をすり抜けたんだよ。まもなく身動きが出来なくなる。神経がマヒしてね。少しの間、付き合ってくれないかな。君に見せたいものがあるんだ」
「ふざけるな…」
 我愛羅は、自分の意思に反して、次第に意識が遠のいていくのを感じた。


 目を開けると、そこは見慣れた自室だった。そして、入り口には亡くなったはずの父・四代目風影が立っていた。 
…父さまが…なぜ…?
 風影は、我愛羅に気が付かないのか無言で目の前を通り過ぎていった。その先には、怯えた顔で寝台に横たわるもう一人の自分の姿があった。
…あれは、オレ?…

「お前の力が必要だ…我愛羅」
「………」

…これは、あの中忍選抜試験に出かける前夜の光景なのか?…

「砂は、音と共に木ノ葉崩しを行う。…お前は、その為の切り札だ。この作戦が成功したら、オレも今度こそお前の存在価値を認めてやる」
「…父さま…」
「お前の人柱力としての力を示せ。オレが、お前を風影の息子として再び愛せるようにこの作戦でお前の本当の力を見せてみろ」
「……………」
「お前に期待している。我愛羅」
「…父様……」
 風影が我愛羅の部屋を訪れたのは、六年ぶりの事だった。それは、我愛羅が長い間ずっと夢に見ていた光景だった。

………
……………

…期待している…我愛羅…

…お前を認めてやる…

…この作戦の中で真のお前の力を見せてみろ…

……真の力……

…すごいぞ…我愛羅…もうこんなことができるようになったのか…
…夜叉丸が、教えてくれたから…ボク、一生懸命覚えたんだよ…
…さすが、私の息子だ…四代目風影の息子だ…

…我愛羅…守鶴化して戦え…そして、木ノ葉をつぶせ…

…ずっと…ずっと…

…夜叉丸が生きていたころから…

…ずっと…ずっと…

…オレが母様の死と引き換えにこの世に誕生した日から…

…オレは父様に許されたかった…

…母様の命を奪ったオレの罪…

…オレは、必要とされること…認められることで父様に許されたかったのだ…

…風影になる?…
…誰も…そんなことは望んではいない…
…里の人々は、今もなおオレを嫌い憎んでいる…
…どんなに努力しても…誰もオレを認めてはしないだろう…
…誰も…オレを必要とはしない…
…それなのに…
…どうしてオレは風影を目指しているのだろうか…

 月に照らされた展望台が、くっきりと長い影を砂に落としていた。それは、我愛羅が砂漠基地に来て二回目の満月の夜の出来事だった。


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