辺境警備3〜ジンの荒野


 一時間後、我愛羅の目の前に楕円状の結界で守られた砂漠が見えてきた。南北に長いその第123演習場では、丁度、アカデミー卒業者たちの卒業認定試験が行われていた。先の木ノ葉崩しで大勢の上忍達が戦死し、その欠員を埋めるために今期は、卒業と同時に下忍に認定されるため、繰り上げて卒業を望む者も多く、日頃は閑散としたその場所に100人以上の生徒たちと約50人のアカデミー関係者が集まっていた。その中に主賓として招かれたのが、上役の一人である由良だった。最終日となる今夜は、打ち上げパーティが開催されていたが、それもすでに終了し、施設内は静寂を取り戻していた。
「おい。お前、何やってるんだよ。とっくに門限は過ぎてるぞ」
 守衛は、中庭に立っている赤い髪の少年に気がつくと驚いて声を掛けた。
「夜中にうろうろしてたら毒蛇や毒蜘蛛に噛まれちまうぞ。…これだから里育ちの奴は困るんだ」
 守衛は、我愛羅を試験関係者の1人と勘違いすると、急いで扉を開けて招き入れた。
「里に帰るのにまた3日かかるんだから、ベッドで休める時は早く寝るもんなんだぞ」
 我愛羅は、ロビーに立つとカンクロウの気配を探した。そして、廊下の突きあたりにある階段を駆け上がると、ずらりと並んだ扉の中から、一番端の部屋を選び扉を開けた。
「我愛羅じゃないか!!」
 ベッドに寝転がったままぼんやりと天井を眺めていたカンクロウは、突然の弟の訪問に飛び起きた。
「なんでお前がここに…」
「説明はあとだ。昼間、砂漠基地から移送された遺体はどこだ」
「遺体?何故お前がそんなものを…」
「いいから早く案内しろ。時間がない」
 突然現れ、尋常でないものを探す弟にカンクロウは、戸惑った。だが、今日半日をカンクロウもまたその変死した者たちの為に費やしていた。
「安置所の鍵は由良が持っている。アレは機密事項だからな。…とにかく先に由良に会え」
 カンクロウは、身なりを整えると上役である由良の部屋に我愛羅を案内した。
「我愛羅?…どうしてあなたがここに?」
 由良もまた、突然の訪問者に驚いていた。四人の血継限界である特別上忍の訃報に続き、今度は、真夜中に我愛羅が訪ねて来るなど、予期せぬ出来事だった。
「詳しく説明している時間がない。ここが危険にさらされる前に今すぐ遺体をこの演習場から砂漠に移す。意思を持った巨大なチャクラの塊が、彼らを捜している。そいつは、竜巻の姿で襲ってくる」
「なるほど。やはり、あの四人は精霊ジンと関係があるようですね…」
「知っているのか。なら、話が早い」
「こっちです。来てください」
 由良は、鍵を持つと自ら我愛羅を安置所に案内した。そして、移動しながら8人の部下達に担架を運ばせ、2人の部下に北門を開錠する指示を与えた。
「相変わらず手際がいいんじゃん」
 カンクロウは、間近で由良の素早い判断や部下への的確な指示を見るたびに、その段取りの良さに驚いていた。そして、将来、我愛羅を支える人物として彼のような存在を側に置きたいと考えるようになった。しかし、別の見方をすれば、由良もまた五代目風影を目指す忍として高い資質を備えている様にも見えた。
「この中です」
 施錠を外すと、台の上に並ぶ四つの大きな袋が目に飛び込んできた。
「北門から20キロの地点まで運ばせましょう。徒歩なので多少時間がかかりますが…」
「いやそれでは危険すぎる。オレが砂に乗せて運ぶ。その方が早い」
「あなたがですか?」
 由良は、我愛羅に対しても丁寧だった。常に礼節をわきまえ落ち着いた口調を崩さない態度は、彼を謙虚な人間に見せた。
「ですが、それでは、あなたの身が危険ですよ」
「少しでもこの演習場から遠ざけるにはそれしかない」
「そうですか。わかりました。でもどうか気を付けて」
 我愛羅は、四人の遺体袋を敷物のような砂で持ちあげた。そして、自らも砂の塊の上に乗った。
「オレも一緒に行こう」
 カンクロウは、我愛羅の横に飛び乗ると、砂は、ふわりと浮かび空中を飛び始めた。
「あまり高度を上げ過ぎると襲われた時に危険だ。低空を行こう」
「お前…いつの間にこんなこと、できるようになったんだ?…」
 カンクロウは、初めて空中から砂丘を俯瞰すると、その光景の不思議さに感嘆の声を上げた。
「…ナルトと再会する少し前だ」
 対君麻呂戦の終盤に地面から骨を突き上げられ、空中に逃げ場を求めた。咄嗟の判断が、新術を我愛羅にもたらした。そして、速度コントロールが出来るようになると砂が移動手段となり、それにより戦闘領域が飛躍的に拡大した。内に秘めた尾獣の膨大なチャクラを発動させるためには、その可動空間の広がりは、必然であり、それにより我愛羅は、総体的に忍術のレベルを引き上げることができたのだった。
「あっという間に演習場が遠ざかるじゃん」
「念のためにもう少し離れよう」
 我愛羅が速度を上げるとカンクロウは、振り落とされないように身を低くした。
「この辺でいいだろう」
 真っ暗な砂の上にふわりと砂の絨毯が着地すると、砂はそのまま分散した。
「…念のため、オレたちは少し離れた方がいい」
 カンクロウは、我愛羅に促されるままに後方の砂丘まで下がった。月明かりでさざ波のように見える風紋の上に四つの遺体袋が静かに並んでいた。それは、夜の帳(とばり)に包まれて冥府に向かう小舟のようにも見えた。
「我愛羅…お前…奴らの亡骸を見たのか?」
「…見た…」
「どうやら奴らは、風の国の中でも最も古い部族の1つらしいじゃん…何でも精霊ジンの末裔と言わる血継限界だとか…オレも初めて知ったんだが…」
「…砂の里では誰も語らなかった…だが、砂漠では結構知られていたらしい…」
「砂の里の奴らにとっては、何かと不都合な連中だから…。それより…お前…」
「……?」
「…いや…やっぱりいい…何でもない」
「………」
 カンクロウは、人でない姿で逝ってしまった彼らの躯を見た時に、すぐに我愛羅の心境を考えてしまった。そして、願わくば我愛羅が、その躯を見ることのないようにと祈った。
「お前は、彼らの事をどこまで知っている?」
 我愛羅は、カンクロウが言いよどんだ質問を別の質問で返した。
「由良たちの話じゃ奴らは、元々、砂の創世記に初代風影と砂漠を渡ってきた一族だったそうだ。だが、あの特異な変身能力のせいでやがて仲間に忌み嫌われ、里を追われたらしい。二代目の時代には、人柱力の実験体としても利用されたことがあったそうだ。砂漠に追われた奴らは、あちこちのオアシスに点在し、一部はアカデミーの分校で忍術を学び忍になるが、ほとんどが里には戻らず、砂漠基地にいるらしい。砂の里の連中は、閉鎖的で異質な者たちに容赦がないからな。そのくせ、特異な力を利用することばかり考えている」
「………」
 我愛羅は、里を追われた彼ら血継限界が、死後にアカデミーの研究材料としてのみ里への帰還を許される運命に同情を禁じ得なかった。そして、それは酷く自分の運命と似ていると思った。
…それでも彼らには、痛みや苦しみを分かち合える仲間がいた…
 尾獣を宿された我愛羅は、木ノ葉のうずまきナルトに出会うまでは、たった一人だった。家族はいたが、彼らは、遠い存在であり第一人柱力ではなかった。尾獣化する際に伴う頭痛や筋肉の弛緩について、誰一人理解する者はなく、ただひたすら存在を畏怖され差別された。そんな恐怖と絶対的孤独の中で生きていかねばならない人柱力の心境を理解しようとする者は皆無だった。
…このまま砂漠で眠ること…それが、彼らの本当の願いなのではないだろうか…
 我愛羅は、砂漠に並ぶ彼らの姿を見てそう思わずにはいられなかった。


 一陣の風が吹き、我愛羅の赤い髪を揺らした。
「…やっと見つけたようだな」
「えっ!?まさかジンなのか?」
「お前は、砂に伏せてろ…」
「一人で大丈夫なのか?」
「………」
 我愛羅は、遺体の方向へ素早く移動すると、砂で球体を作った。そして、次の瞬間、竜巻がその砂の繭を飲み込むように上空に巻き上げた。カンクロウは、我愛羅が作った砂の壁で守られていたが、バリバリとすさまじい轟音と猛烈な風に次第に顔をあげておられず砂に深くうつ伏せた。

…アレヲ カエセ…
 抑揚のない声が前回と同様に直接、我愛羅の脳裏に響いてきた。
「お前は、一体何を探しているんだ」
…アオイ イシタ゛ ソコニ オレノ ナカマガ フウジコメラレテイル…
「青い石?」
…ソウダ  クサリヘビガ ノミコミ ドコカニ カクシタ…
「くさり蛇…」
 我愛羅には、それが変身したオウサのことだとすぐに分かった。そして、彼らから渡された布袋の中にあった青い宝石の事を思い出した。
「お前の探しものは、オレが預かっている」
…カエセ イマスグニ…
「今ここにはない。だが、必ず返してやる。少しだけ待て」
…トリモドス オレノ ナカマ…

 我愛羅の繭は、竜巻から放り出されるとそのまま落下した。繭は、柔らかい砂丘に受け止められると軽く転がった。
「…せっかちな奴だ…」
 身を起こすと我愛羅は、竜巻の去った方向を見た。そこにカンクロウが駆けつけてきた。
「大丈夫か?」
「このままだと基地が危ない。奴はオレが持っている青い宝石を探している」
「青い宝石?どうしてお前が、そんなものを持ってるんだ!?」
「………」
 
…オレ達は、この変身能力のお蔭で生き延びている。これまで多くの砂忍たちが命を落とした忍界大戦を経てもこうしてな。だが、いくら何百人もの他里の忍をやっつけても里の奴らや基地の奴らは、オレたちに感謝するどころか異常な目で見やがる。英雄として称えても、隣人にはしたくないと言わんばかりだ…
 我愛羅の脳裏に彼らの言葉が蘇った。そして、同時に砂漠基地の仲間たちの態度やセキの言葉が思い出された。
…やっぱり、こんなことができるのは、奴らが人間じゃないからだよね…
…ほら、あいつ等って…全員バケモノだったろ。やっぱり、いくら強くても…普通じゃなきゃダメだよね…

「カンクロウ。お前は、オレが怖くないのか?」
「えっ?」
 我愛羅の言葉にカンクロウは、思わず目を見開いた。幼い頃、カンクロウは、同じ質問を夜叉丸にしたことがあった。
「な…何言ってんだよ。お前が、怖いわけないだろ」
「…ごまかすな」
「そりゃ、以前のお前は近寄りがたかったが…だが、お前は、変わった。もう以前のお前じゃない」
「…変わった?」
「ああ。今やオレの自慢の弟だ」
「……」
「我愛羅…」
「…なら弟として…兄のお前に頼みがある」
「ああ。なんでも言ってみろ。聞いてやるじゃん」
「…もしも、お前がオレの死に際に立ち会うことがあれば…その時は、オレの躯を誰もいない砂漠に埋めて欲しい。…オレは、その姿を他人に晒したくない…」
「…我愛羅…」
「オレは、バケモノではなく人として死にたい…」
「………」
 カンクロウは、先ほどの自分の問いを我愛羅が察していたことを知った。
『…我愛羅…』
 そして、込み上げてくるものを必死で押さえながら答えた。
「…わかった。もしも、お前がオレの目の前で死ぬ様な事があれば、必ずそうしてやる。でも、その前にオレがお前の盾になるじゃん。…だから、その言葉は、テマリとバキに伝えておく」
 これまで我愛羅の口から尾獣化した姿やその心情について語られることはなかった。まして自らの死について言及することなどありえなかった。
『やっぱり…ずっと…こいつは…』
 守鶴化した姿のままで死んでしまったら、我愛羅という存在は、やはり人ではなくバケモノだったという事になる。自らの運命に苦しみながらやっと希望を見出し、一人の忍として風影を目指そうとしたその思いもすべてが我愛羅の存在とともに否定されてしまう。
『違う…そうじゃない…コイツは、オレの弟だ…』
「我愛羅…」
 カンクロウは、我愛羅の存在を確かめるように 思わず我愛羅を抱きしめていた。その頬には、涙が伝っていた。


「本当にいいんだな…」
「ああ…。コイツ等の遺体は、ジンが連れ去ったと由良には報告するじゃん…」
 我愛羅とカンクロウは、四人の遺体の側に立っていた。我愛羅は、両手に力を込めると流砂を起こし地中深くに彼らの躯を埋葬した。
「ここに精霊ジンが留まるようになれば、もう誰も近づけない。奴らも静かに眠れるだろう」
「精霊ジンか…」
…アオイ イシ オレノ ナカマガ フウジコメラレテイル…
「オレは、一旦砂漠基地に戻ってアイツの探していた青い石をここに持って来なければならない」
「今からか?…ならオレも一緒に…」
「お前は、由良の護衛だ」
「そりゃそうだが…」
「もう戻れ。…これは、オレの任務だ」
「ちっ。本当は、一緒に行きたいところだが…仕方ない。今回は、諦めるとするか」
 星の動きで日付が変わったことを知ると我愛羅は、カンクロウに別れを告げた。
「…毒蛇や毒蜘蛛に気をつけろよ」
「お前こそ調子に乗ってあんまり高く飛ぶなよ。落っこちるかもしれないじゃん」
「…心配ない」
「そうだ。たまには、手紙をよこせよ。テマリも心配しているぞ…」
 カンクロウは、砂で飛び立つ我愛羅の姿が見えなくなるまで名残惜しそうに見送った。そして、完全に見えなくなると諦めて演習場の方角に歩き始めた。
「…くそっ、やっぱり我愛羅のヤツ調子に乗って飛んで来たな。オレが帰り徒歩だってこと、全然考えてないじゃん」
 カンクロウは、風紋の刻まれた砂漠をひたすら東に向かって歩いた。そして、空が白みかけてきた頃、ようやく遠方に第123演習場の結界を視認したのだった
 

「一体何時になったら着くんだよ。第123演習場には…」
「ばか。誰のせいでこんなに遅くなってると思ってるんだよ」
「えっー。オレのせい?」
「お前が毒ヘビ踏んで大騒ぎするから、盗賊に見つかってつまんない戦闘になったんだろ?」
「それは、ツブサが、オレに毒グモだって棒きれ投げつけたから…」
「だって砂漠は無音で味気ないし、楽しくやろうってサテツ隊長が言うし…だからオレは、気を利かしたんだよ」
「お前らそんなに元気があるなら、とっとと歩けよ。アカゲが待ってるぞ」
「アイツは、オレ達が向かってること知らないんだよね?行ったら、すっごく驚くだろうね」
 砂漠基地を出発したサテツ隊は、まだ基地から1時間しか離れていない砂漠の中で彷徨っていた。彼らは、同じ班の我愛羅を追いかけて第123演習場を目指して出発したが、途中あれこれと余分なアクシデントに見舞われて、本来ならとっくについているはずの目的地に未だ到着していなかった。
「まったく、夜の砂漠は涼しくていいなんて誰が言ったんだよ。…そこら辺中に毒ヘビや毒ぐもはいるし…サソリまでウロウロしてるよ」
「鳥みたいに空でも飛べりゃ早いんだろうけどな」
 サテツは、砂に乗ると言っていた我愛羅のことを思い出すと夜空を見上げた。星座の位置は、明らかに出発時より傾いていた。
「あっ!!アカゲが飛んでる!」
 サテツの言葉に何気なく上空を見上げたツブサが叫んだ。
「いくらなんでも空飛ぶはずないだろ」
「本当だって。ほら、あそこ…砂の塊が飛んでる。その上に人が乗ってるよ」
 口々に指を指して騒いでいると、やがてその塊が近づき誰の目からも見えるようになった。
「本当だ。アカゲが乗ってる」
「おーい。アカゲー!!」
 頭上を飛ぶ砂の塊に向かって三人は、下から我愛羅の名前を呼んだ。
「……?」
 声のする方を見下ろした我愛羅の目に砂漠の真ん中でぐるぐると大きく手を振っている三人の姿が映った。
「アイツら…なんで…ここに?」
 驚いた我愛羅は、砂漠に着地した。
「ふう…やっとアカゲに追い付いた。これでもオレたち一生懸命、夜の砂漠を歩いてきたんだぜ。ようやく一緒に演習場に行ける」
「オレは、基地に帰るところだが…」
「えっ…!?演習場には行かないのか?」
「用事は終わった」
「終わった?…もう行って来たってこと?…ほら見ろ。お前のせいで間にあわなかったじゃないか」
 ツブサは、セキを小突いた。
「もう…すぐオレのせいにする!」
 小競り合いの理由は分からなかったが、我愛羅は彼らが自分を迎えに来てくれたことに気が付いた。
「だが、何故…」
 我愛羅は、サテツの顔を見上げた。
「オレ達は、仲間だろ。忍は小隊行動が基本だからな」
 サテツは、斜めになった我愛羅の額当てをまっすぐに戻すと半分覗いていた緋文字を隠した。その顔は、穏やかに笑っていた。
「…すまない…」
 我愛羅は、照れたように礼を言った。真夜中にこうして仲間と砂漠の真ん中で再会することなど、思ってもみないことだった。
……オレのことなら心配ない…基地には仲間もできたから……
 カンクロウに言った言葉を我愛羅は、もう一度空を仰いで噛み締めると、三人の顔をそれぞれ眺めた。皆、疲れて少し汚れていたけれど、どれも温かい笑顔が浮かんでいた。
「じゃあ、帰ろうか。いくらなんでも夜明けまでには、着くだろう」
「あっ、オレ、今、アカゲが乗っていたアレに乗りたいな。…空飛ぶ砂」
 セキは、目を輝かせながら興味深々といった様子で我愛羅を見つめた。
「今は、無理だ。チャクラを使いすぎて四人は運べない」
「そっか。じゃあ今度、アカゲが疲れてないときに乗せてね」
 無邪気なセキの隣で、ツブサは、その場に座り込んだ。
「とにかく今日は、早朝から一日中、歩きっぱなしだ。さすがに疲れたよ。もうここでいいから野宿しよう」
 そして、寝転がると同時に伸ばした手で何か柔らかいものを掴んでしまった。
「…う…この感触…」
 そっと手の方を見るとそこには、とぐろを巻いたヘビが威嚇するように牙を剥いていた。
「うわっ!!」
 ツブサは、慌てて立ち上がると、手を大きく振って逃げだした。
「この辺は、毒ヘビが多いから気をつけろと言ったろ。野宿は危険だ。早く基地に戻ろう。時間はかなり経ったが、距離的にはそれほどでもないのが幸いだったな」
「へへ。オレのお陰さ」
 セキは、ツブサに対して得意げにそう言うと、我愛羅の腕に手を回して引っ張った。そして、彼らは、苦労して来たばかりの砂漠を大騒ぎしながら引き返した。


「あれ…?こんなところに石炭が…」
 伝書鳥たちの飼育小屋から厠に向かう途中でハズクは、砂漠には珍しい黒い石を拾った。始めは、それは、燃料として使用している石炭だと思ったが、拾い上げてみると重くて硬い岩石だということがわかった。
「どこかでみたような…」
 ハズクは、昨日の夕方、この場所で四人の変死体を確認した事を思い出した。そのうちの一人である岩石人間のゲンブの石が丁度そんな色だった。
「まさかあの時、収容袋から落っこちたのかな?」
 確か彼らの遺体は、上役の命令で昼間のうちに第123演習場に運び出されたはずだった。伝書鳥による往復書簡で、それをウエシタ部隊長に真っ先に伝えたのは、他ならぬハズクだった。
「なんたって血継限界の人だからな。これは、砂隠れの重要機密でしょ。とにかくウエシタ部隊長に報告だな」
 一日中、鳥の世話をしていたハズクの耳には、精霊ジンの噂は伝わっていなかった。そして、人一倍忠誠心の厚いその鳥好きの若者は、まだ周辺に落ちているのではないかと熱心に同様の黒い石を探した。そして、大小四つの欠片を見つけ出すと、それを丁寧に布に包んでウエシタのいる指令室へと走った。
「お手柄、お手柄…今度こそ里に帰して貰えるぞっ!!」
 それは、丁度、我愛羅とサテツ達が再会した頃の砂漠基地内での出来事だった。
                                                             


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