辺境警備10-2〜反乱4


 翌朝、討伐隊の四人は、我愛羅、カンクロウ、そして、サテツ隊の三人を率いて砂漠基地を出発した。暴動が起きた村は、砂漠基地から凡そ一日の距離にあった。
「岩石砂漠のはずれにある村は、昔から、紛争地帯だ。岩隠れとの小競り合いは、日常茶飯事だし…地盤がもろくて、何度も崖崩れを起こしたりしている」
「オレ達が、討伐するのは、一番初めに騒ぎを起こした村だ。そこを血祭りにあげて他の村を牽制する作戦だ。」
 移動しながら、事の経緯をカワスナ達は、我愛羅に語った。
「とすると、暴動鎮圧の依頼人は、その村の領主ってことなのか?」
「そうだ。領主は、その村人を始末して欲しいらしい」
「…自分の村の人々を捨てるってのか?おかしな話じゃん」
「地下資源が豊富にある土地らしい。人は後から補充するつもりなんだろう」
「そこの住民は、飢餓で人が人を喰ってるって話だから、おかしくなった奴らをこの際、始末してしまおうってことだろう」
「食糧不足なら、領主こそがなんとかしろってんだ。ちっ…オレがそこの住民でも暴動を起こしたくなるぜ」
 カワスナ達の話を聞きながら、サテツ隊のツブサやセキも呟いていた。我愛羅と同じ年のセキは、血継限界を持つ少年で鳥に変身する能力を持っていた。ツブサは、22歳で驚異的な視力の持ち主だった。小隊を率いる中忍のサテツの能力は、未だ判然としていなかったが、いずれにしても彼らは、我愛羅にとっては、初めてできた仲間だった。
 途中、休憩をとりながら、彼らは、北の国境にある岩石砂漠を目指した。その地域には、以前、我愛羅達が、鉄製の忍具を仕入れるために訪れた守鶴伝説のある鍛冶屋村があった。
「足元が悪いな。とんがった岩で転びそうだよ」
「うわっあっ…」
 言ってる側から、セキがツブサに倒れかかった。
「セキ…転ぶ時は、一人で頼むよ。オレを巻き添えにするな」
「…んなこと言ったって…」
「オレがお守りするのは、お前じゃなく我愛羅様だぞ」
「オレだってそうだもん」
「お前ら、うるさいじゃん。我愛羅を守るのは、このカンクロウさまだ」
「おいおい。そんな大声出したら敵にオレ達の居場所がばれるでしょ」
「……」
 サテツ隊にとっては、初めてのAランク任務だった。セキやツブサは、自分たちに声がかかったことに驚いていた。だが、我愛羅の護衛が主な任務だと知ると張り切った。特に、我愛羅に何処までもついて行こうと決めたツブサは、使命感に燃えその千里眼を輝かせた。セキもまた、我愛羅が風影になり、自分たち一族の復興を約束してくれたことでこの任務に命をかけて臨んでいた。サテツは、我愛羅を任せると言ったバキの期待に今度こそ応えたいと考えていた。それぞれが抱いた志は、真摯なものであったが、その道中は、相変らず緊張感に欠けていた。
「今日は、ここで野営する。明日は、夜明けとともに出発する。それまで、しっかり休め。簡易テントは、三つあるから、オレ達が一つ、我愛羅とカンクロウが一つ、サテツ、ツブサ、セキが一つだ。いいな」
 カワスナは、テントの用意が出来ると、部下のセッカイに見張りに立つよう指示した。
「いつものように3時間おきに交替しよう。フヨウ、アカダマ、最後は、オレだ」
「了解です」
「特別上忍のあなた方に見張りをしていただくなんて、なんか申し訳ないですね」
 サテツが、そう言うとカワスナは、意外な顔をした。
「お前達は、我愛羅の護衛に徹すればいい。この任務を終えて鎮圧部隊全員を無事に基地に帰還させることが、オレの使命だからな。見張りは当然だろ」
 隆々たる筋肉をまとった特別上忍の彼らからは、これまでの歴戦の勇者としての矜持がにじみ出ていた。
「あなた達と合同任務が出来るなんて光栄ですよ」
 その時のサテツは、心からそう思っていた。カワスナは、サテツの言葉に豪快に笑ってみせた。


 我愛羅とカンクロウは、割り当てられた簡易テントの中で夕食用の固形食をかじっていた。それは、我愛羅達が討伐隊に参加することを知ったツチノやカシケが、拠出したものだった。
 彼らは、真夜中に食料倉庫で見た盗賊の話を我愛羅に告白した。
「食料を盗んだ罪でオレ達、オキテどおり鞭打ちなんかされちゃうのかな…」
「牢屋に入れられて何日も拷問されるとか…まっ裸で砂漠に追放されるとか…いろいろ、噂があるけど…本当かな」
「どうしてオレに話す?」
「だって…我愛羅は、オレ達皆の代わりにこれから討伐隊に参加するんだし…砂漠で腹が減って戦えなかったりしたら困るだろ?…だから、この食べ物は、オレ達が持っているより砂漠に出る我愛羅達が持ってた方がいいと思ったんだ…」
「だから、オレ達、決めたんだ。せっかく下忍になったんだから、少しは、人の役に立つことをしようって…」
「そうか…お前たちの志はわかった」
 我愛羅は、差し出された大量の固形食を受け取ると、彼らの名前を伏せたままイサゴに差し出した。討伐隊は、それを携帯食として配給されたのだった。
「あの二人には、子供のころに迷惑をかけてしまったから、オレを嫌うのはしかたがないことだった。だが、どうやらオレを許してくれたらしい。…不思議だな。いつの間にか、オレの中にあった憎しみもどこに行ってしまったようだ」
「我愛羅…お前は、与えられなかった愛情の代わりに、仕方なく空っぽの心に憎しみの心を詰め込んだんだ」
「愛情の…代わり?」
「ああ。そうだ。お前は、本当は、親父の愛情を欲していた。…認められること…必要されること…だから、親父が死んだ時、あれほど苦しんだんだ。求めていたものが、永遠に与えられないと知ったからだ。でも、その代わりにお前は、あのうずまきナルトに出会った。そして、心に詰めるものを教わったんだ」
「ナルトが…オレに教えてくれたもの」
「そうだ。憎しみの心は、冷たく空虚だ。だから、誰かに受け止められようとして膨張する。でも、人を愛する心は、温かくて優しい。幸せという中身がぎっしり詰まっている。だから、そいつで満たされると、憎しみはいつの間にか消えてしまうんだよ」

…我愛羅、約束だってばよ。オレは、火影に、お前は、風影になる…
…ナルト…オレは、お前の瞳に映るオレを信じたい…お前が、自分を信じるように…オレも自分を信じたい…
…そして、おれたちは、この里に繋がり生きていく…大切な人たちを守るために…

「…だが、守鶴が欲しているのは、あくまでも憎しみの心だ」
「それは、どうかな。…アイツは、多分、お前に構われたがってるのさ。…アイツには、お前しかいないから…」
「オレしかいない?」
「オレは、この前、守鶴に会った。お前の姿を借りたアイツは、泣いているように見えた」 
「守鶴が…泣いていた?」
 我愛羅の脳裏にもいつか見た砂漠の上にぽつんと置かれた小動物の姿が蘇って来た。それは、哀しい声で鳴くと、やがて砂粒になり分解した。
「…確かに生まれたときから、アイツの側にいたのはオレだけだった。そして、オレの側にいたのも…。オレを嫌ってるふりをしながら、一人ぼっちだったオレを慰めるように声をかけてくれた。時には、励ましてもくれた。絶対的な孤独の中でオレが狂わなかったのは、アイツが居たからかもしれない。…だが、こうも考えてみた。もしも、始めからアイツがいなかったら、オレは、普通の人生を送っていたはずだったし、もっと早くにナルトの様な友達を作ることもできたはずだ。人柱力でなければ、里の人たちから冷たい目で見られることもなく、父親から殺されるようなこともなかったはずだ。アイツがオレの中にいるばっかりに、オレはずっと苦しかったし…ずっと辛かった。そして、その上、今度は、オレの前途を阻もうとして妨害しようとしている。オレが、唯一憎しみを感じるとすれば、それは、アイツの存在に対してだ」
「我愛羅…」
 人柱力であることを受け入れていたはずの我愛羅が、これ程、自分の感情を表に出すのをカンクロウは、初めて見た気がした。それは、長い間、隠していた我愛羅の本心であるかのようだった。
「だが、いずれにしてもお前の中から守鶴だけを取り出すわけにはいかない。そんなことをすれば、お前は死んでしまうからな。憑依の術の厄介なところは、一方通行なことだとチヨバアが言っていた。守鶴が、このまま反乱を続ければ、お前の精神は、危険にさらされる。守鶴を何とかしなけりゃ…」
 カンクロウは、我愛羅の苦しい胸の内を知ると、今更ながらに我愛羅に寄り添った。だが、相変らず守鶴は、我愛羅に悪夢を見せ続けていたし、カンクロウには、それをどうすることもできなかった。

「…うっ…あっ…はっ…」
 その夜は、大蛇丸とカブトが我愛羅を拘束した。
「ほら、これが呪印よ。あなたにも私の力を貸してあげるわ」
 大蛇丸は、我愛羅の全身に長い舌を巻きつけるとそのまま力を込めて絞めあげた。そして、息苦しさに我愛羅が、体を硬直させると嬌声を上げた。
「これが守鶴のチャクラ…感じるわ…全身に力がみなぎるようだわ」
「…うっ…ああっ…」
「大蛇丸様、そろそろ私に代わってください。一人占めは、ずるいですよ」
「カブト。…お前もチャクラを補給したいのね…」
「オレに…触るな…」
 我愛羅は、入れ替わりに巻き付こうとするカブトを足蹴りした。
「おやおや…この子は、意外に乱暴ね。そんな悪い子には、お仕置きをする必要があるわね」
 大蛇丸は、我愛羅の片腕を思い切り反対方向に捻じ曲げた。我愛羅は、激痛に顔をしかめた。
「あっ…あっ…やめ…ろ…」
 さらにもう片方の腕を捻じ曲げたのは、カブトだった。
「うわぁっっ…」
 我愛羅は、耐えきれぬ痛みに大声で悲鳴を上げた。
「さあ今度は、右足よ。そして、次は、左足。勿論、最後は、その可愛らしい顔よ…この痛みに最後まで耐えられたら、オレもお前の存在価値を認めよう」
 大蛇丸とカブトの姿は、いつの間にか風影に入れ替わっていた。
…父さま…
 我愛羅は、父親の愛情を渇望するあまり、その心を風影と入れ替わった大蛇丸に利用されたことを思い出した。守鶴は、そんな我愛羅の様子をずっと息を潜めて見ていたのだった。
『真実を知った時…お前は、これまで以上にこの世の全てを憎むはずだ…それは、オレにとっては、最高のご馳走だ…』
 風影の死を我愛羅が、知ったのはずっと後のことだった。4代目風影への愛憎を利用され我愛羅は、中忍選抜試験から木ノ葉崩しへと駆り立てられていったのだった。
『お前を騙して利用しようとした大蛇丸とカブトを憎め…そして、お前の苦しみの元凶である四代目風影を憎悪しろ…偽善者のカンクロウや、お前に同情を友情と勘違いさせた木ノ葉のナルト…お前には憎むべき相手がたくさんいる…それを思い出すんだ』
 守鶴は、我愛羅に真実と虚構の入り混じった屈辱の記憶を再現することで、その境遇や不幸な生い立ちを思い出させようとしていた。
「今一度過去を振り返り、自分を不幸にした連中の顔を思い出せ。そして、再び憎悪をたぎらせオレとともに砂隠れを滅ぼそう!」
 守鶴は、我愛羅を結界の中に誘い込みそう囁きつづけた。
「無駄なことだ…」
 守鶴の鼻先に腕組みをした我愛羅が立っていた。
「無駄だと?」
 守鶴は、目の前に立つ我愛羅を睨んだ。
「こいつらは、お前を騙し利用しようとしたんだぞ。忘れたのか?」
「…それは、お前が作り出した幻術にすぎない」
「我愛羅。何をいっている。すべて事実だ。お前こそ現実から目をそらすな。風影は、お前に刺客を放ち何度も殺そうとした。夜叉丸やタスケやマサ吉のことを忘れたのか。大蛇丸やカブトは、お前の渇望を知りその愛憎を利用しようとした。お前だって後日、気付いたはずだ」
「それは、もはやオレにとっては、どうでもいいことだ」
「都合良く不必要な記憶は、削除したというわけか。だが、そうはいかないぞ。オレはずっと見ていた。あんな酷い事をそう簡単に忘れられるはずがない。何年も何年もお前は、苦しめられ負の感情を醸成した。お前が忘れたふりをしてもオレは、覚えている。お前の心は、この里やお前を苦しめた奴らを殲滅しようという憎しみでいっぱいだったはずだ」
「守鶴…そんなに憎悪が、欲しければくれてやる。だが、それは、お前に向けられたものだ。オレは、お前が嫌いだ。このオレを苦しめてきたのは、他の誰でもない。お前という存在だからな」
「我愛羅…貴様…」
「お前は、醜い、そして、ずるい。オレは、オレの中にいるお前が憎い。お前が弱ってこのままオレの中から消えてくれるのなら、オレにとっては好都合だ」
「…よくもこのオレにそんな言葉を…どうなるか分かってるのか…」
「もう一度言う。オレは、お前が嫌いだ!」
「…くそう…貴様…絶対に後悔させてやるからな…覚えてろよ」
 守鶴は、鋭い目で我愛羅を睨むと意識の中に姿を消した。
「……」
 我愛羅は、守鶴が去った闇の中で宙を見上げた。真っ暗なその世界には、ただ冷たい沈黙だけが支配していた。
「たった一人…こんなところにアイツは、いるんだ…」
 そこは、以前、自分がいた世界に似ていた。我愛羅は、乾いた大地に置き去りにされ一人ぼっちで泣いている子供だったが、守鶴の閉じ込められている世界には光すらなかった。
「…オレ達は、互いに良く似ていた。だからこそ共鳴することができたんだ。…だが、もう後戻りはできないんだ」
 我愛羅は、意識を自分のチャクラに戻すとその結界から脱出した。


「行くぞ」
 未明、東の空がにわかに白みかけると彼らは、出発した。そして、まだあたりが薄暗い闇に包まれる中、ひときわ黒い岩山が表われると、カワスナは、彼らを三つの小隊に分けた。
「目的の村は、この岩山の向こう側にある。ここからは、特に険しいから、オレは、我愛羅とカンクロウを誘導する。アカダマ、フヨウは、サテツ隊長を、セッカイは、セキとツブサを誘導してくれ。岩山の向こう側に出たら泉があるから、そこで落ち合おう。くれぐれもゲリラ部隊に気をつけろ。奴らは地の利を生かして岩影から襲ってくるぞ。忍顔負けの奴もいる。おそらく、何処かの里の抜け忍だろうが…」
「爆発物を使う奴もいるらしい。…崖崩れにも気を配れよ。これまで、何人もここで生き埋めになっているからな」
「…大丈夫かな。オレ…敵と戦闘なんて…初めてだよ」
「誰でも初めてはある。それを越えて行かなきゃ、一人前の忍にはなれないじゃん」
「さすが、元特別部隊。なんで、アンタ達がいつまでも下忍のままなのか、不思議でならんよ」
 彼らは、互いに無事を祈りながら3方向に散った。
「…我愛羅、オレから離れるなよ」
「……」
「砂瀑の我愛羅、アンタにとっちゃ大したことのない任務だよ。オレは、アンタがどんなに凄い忍か良くわかってるつもりだ。風影になるのも当然だと思ってる」
 カワスナは、我愛羅達を前方に誘導しながらさりげなくそう言った。我愛羅は、無言だった。
「気をつけろ。落石だ」
「……!」
「我愛羅…!!」
 頭上から大きな岩が、転がり落ちると我愛羅は、下から砂を飛ばしてそれを弾き飛ばそうとした。だが、その岩を捕えたのは、カンクロウのチャクラ糸だった。
「…危なかったじゃん。我愛羅、大丈夫か」
「…!?…どういうことだ?…砂瀑の我愛羅にはオートの砂があるって聞いたが?」
 我愛羅は、無言だった。カワスナは、首をかしげると少し速度を落とした。カンクロウは、我愛羅を支えるように横に並んだ。
「ハァ…ハァ…ハァ…」
 途中まで来たところで、カンクロウは、我愛羅のスピードが極端に落ちていることに気が付いた。見れば、苦しそうに肩で息をしていた。
「我愛羅…どうしたんだ」
「なんだか、苦しそうだな。おい、大丈夫か…そう言えば、アンタ…体調が悪いと言っていたな…」
「…カンクロウ…」
「どうした」
 心配して肩を貸すカンクロウに我愛羅が、囁くように言った。
「…チャクラが、もう練れない」
「なんだって?」
「守鶴が、妨害している。…オレのチャクラが引き出せないように内部から結界を張っている」
「オートの砂だけじゃ飽きたらず…全部かよ」
 我愛羅は、頷いた。先程から、彼らの移動速度についていくことも辛くなっていた。
「…くそ。なんてこった…こうなるんじゃないかと思っていたんだ。だから、基地からお前を出したくなかったのに…」
「…大丈夫だ。…覚悟していたことだ。騒ぐな」
 二人で深刻そうに話している様子にカワスナは、怪訝な顔をした。
「どうした?村まであと少しだ。急がねば、集結時間に遅れるぞ」
「済まない。オレたちは、棄権する。…思った以上に、我愛羅の体調が悪い」
「どういうことだ?詳しく話してくれ」
「…今はダメだ。オレ達は、このまま基地に引きかえす」
「勝手なことを言うな。アカデミーの遠足じゃないんだぞ」
 カワスナは、カンクロウに抗議するように言った。だが、カンクロウは、一歩も譲らなかった。
「暴動の鎮圧は、アンタたちに任せる。オレは、我愛羅と戻る」
「貴様…」
「…オレは、行く」
「我愛羅…むちゃ言うな」
 カンクロウに支えられながら、我愛羅は、よろよろと立ち上がった。
「いい。…オレの言う通りにしてくれ」
「我愛羅…」
「守鶴がその気なら…覚悟があると言ったはずだ。こうなることは、わかっていた。だからこそ、ここで引き返すわけには行かないんだ。アイツは、あらゆる手段でオレを試している…オレを屈服させようとしているんだ。アイツは、オレが諦めるのを待っているんだ」
「だが、そんな体で暴徒たちと戦うなんて無理だ」
「それでも行かねば…」
  二人の会話を聞いていたカワスナも、やがて我愛羅の異変に気が付いた。
「砂瀑の我愛羅…アンタ、もしかして守鶴のせいでチャクラが練れなくなったんじゃないか?」
「……!!」
「アンタ…何でそれを…?」
 カンクロウは、カワスナの言葉にわが耳を疑った。
「…二代目の人柱力もそうだったんだ」
「えっ…?」
「…どういうことだ?」
 我愛羅もまた、カワスナの発言に注目した。
「オレは、二代目の人柱力とアカデミーの同期だった。…アイツは、望んで人柱力になったが、守鶴を無理に手懐けようとして逆鱗に触れた。そして、適合していたはずなのに突然、暴走して死んでしまったんだ。それから、しばらく守鶴は、茶釜に封印されていた」
「…暴走前に似たような症状があったと言うのか?」
「ああ。人柱力と対立した守鶴は、怒って己のチャクラだけでなく人柱力のチャクラまで制御したんだ。無理して引き出そうとした挙句、二つのチャクラが、ぶつかり合って暴走したらしい。咄嗟に守鶴は、茶釜に封印されたが、人柱力は死んでしまったんだ」
「…なんてこった…」
「そうか…アンタも守鶴を制御しようとして…尾獣に負荷をかけたんだな」
 カワスナは、カンクロウに抱えられた我愛羅を気の毒そうに見ると踵を返した。
「任務は、中止だ。それどころじゃないのがオレにも分かった」
「理解してくれて良かったじゃん」
「……」
「すぐにアカダマやセッカイ達にこのことを知らせる」
 カワスナが、砂暗号を作りかけた時だった。
「…任務は続行すると言ったはずだ」
 驚くべき発言をしたのは、我愛羅だった。
「おい。待てよ。お前、何言ってるんだよ」
「行くぞ」
「我愛羅!!」
 我愛羅は、カンクロウの制止を振り切ると再びその岩山の頂上目指して飛んだ。
「待てよ。おい」
 カンクロウは、急いで後を追いかけた。
「まさかこのタイミングで人柱力に不適合の前触れが起きるとは…。年明けに砂の里への帰還が決まり、我愛羅の奴も少々あせってるようだ」
 カワスナは、砂で暗号文を作るとそれを空中に巻いた。砂は、一固まりとなり北の方向へ飛んで行った。
「風狸村に入れば、第二の守鶴の茶釜が、待ちかまえているはずだ。…これでもうあの人柱力も用済みか…惜しいことだ」
 カワスナは、ゆっくりと背後に迫る黒い岩山を見上げた。そして、沈み行く満月を確認すると二人の後を追いかけたのだった。

<続く>


小説目次  「辺境警備11〜反乱3」

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