辺境警備8-3〜塵旋風


待ち人

 それから2日後、砂漠基地に珍客が訪れた。不審者の侵入に気がついたツチノとカシケは、持ってるだけの手裏剣やまきびし、クナイを投げつけ応戦した。そして、忍具が尽きると大声をあげ体当たりした。アリとギリスが騒ぎに駆けつけると、ツチノとカシケが、同じ年頃の少年の手足に噛みついていた。
「なさけない戦い方だのう。ほれ。これがテマリ姫からの通行書だ。ワシらは、姫の名代で来た木ノ葉の忍だ。怪しいもんではないわ」
「初めからソレ出して欲しいってばよ。痛てて…思い切り噛み付くなんて反則だぞ。大体お前ら、忍者なら忍者らしく忍術を使えってばよ」
 自来也とナルトが、砂埃にまみれながら第三中央方面砂漠部隊基地に到着したのは、木ノ葉の里を出発して7日目のことだった。
「ここってば、めちゃめちゃ遠いってばよ…」
 ナルトは、一週間前に突然、手のひらの上に現れた小さなつむじ風から一握りの砂を貰った。たまたま側にいた自来也が、それに気が付き解読した。
「ねぇねぇ。なんてなんて。もったいぶらずに教えてくれよ。エロ仙人ってば。砂の暗号ってことは、我愛羅からだろ。それ」
 催促するナルトに自来也は、困った顔で少し考えると、風の国に行くことをナルトに提案した。
「内容は、我愛羅に直接会って聞く方といい」
 砂の里までは、3日間の距離だ。往復してもせいぜい一週間。それぐらいなら大目に見るかと自来也は決意した。しかし、砂の里に我愛羅は居らず、結局、そこからさらに3日もかかって彼らは、砂漠基地に辿り着いたのだった。初めての砂漠横断旅行にナルトは、目を輝かせていた。
「ナルト?!なんでお前が…」
 偶然、基地から出てきたカンクロウは、突然現れたナルトに気がつくと驚きのあまり言葉を失った。
「おっ。カンクロウ。久しぶり〜。オレさオレさ、我愛羅に招待されたってばよ」
 相変わらずの馴れ馴れしい口調にカンクロウは、まぎれもなくそれが本物のナルトであることを実感した。
「招待だと?砂漠基地になんで木ノ葉のお前を呼ぶ必要がある?」
「そりゃ、我愛羅がオレに会いたいからに決まってるってばよ」
「そんなことあるかよ。何も聞いてないぞ」
 ナルトの自慢げな口調にカンクロウは、ムカつきながらも、ふとあの時、我愛羅が尋ねたもう一つの砂の暗号の事を思い出した。
「まさか…砂が直接ナルトのところに?」
「砂?来た来た。コレだろ?さすが、我愛羅だってばよ。つむじ風が直接、オレの手のひらに砂を届けるんだからなぁ」
「嘘だろ!?」
 無邪気に喜ぶナルトの横でカンクロウは、心底驚いていた。通常は、いくら我愛羅でも特定の個人宛に砂の暗号を送ることは不可能だった。まして、伝書鳥でも2日もかかる木ノ葉までの距離を一握りの砂の塊が、季節風に分散してしまうことなく届くなどありえないことだった。
「我愛羅のとこに早く案内してくれってばよ」
「うるさい奴だな。で…そっちの付添いのおっさんは誰だよ」
 カンクロウは、ナルトと同行してきた白髪の大男を見上げた。
「オレの師匠、エロ仙人…じゃなくて、伝説の三忍と呼ばれてる自来也先生だってばよ」
 ナルトは、自分が偉大な師匠に習っている優秀な忍であることをアピールしようと言いかけた言葉を正した。
「あっ…アンタがあの自来也?」
 その名前は、砂隠れでも有名だった。カンクロウは、丁寧に自来也をゲストルームに案内するとバキに引き合わせた。そして、ナルトを我愛羅の部屋に案内した。
「お前は、ここで待ってろ」
「ここでって…我愛羅は!?」
「呼んで来てやる。今日は、食事当番だからな。お前が、食堂に行くとまた大騒ぎになるじゃん」
「大騒ぎって…別にさっきのは、オレが騒いでたわけじゃなくてあいつらが勝手に騒いだんだってばよ」
「ふん。オレが心配しているのは、別の騒ぎじゃん」
 カンクロウは、ナルトを我愛羅の部屋に残すと食堂に走っていった。ナルトは、寝台と机と椅子しかない部屋を見渡した。そして、壁の中央に自分が昔使っていたゴーグルが掛けてあることに気がついた。その下には、我愛羅のひょうたんが立てかけてあった。

『我愛羅の奴…驚くだろうな』
 食堂には、いつものようにセキの隣で配膳する我愛羅の姿があった。正体がばれた後も我愛羅は、これまでと同様の生活を送っていた。トレーを持った忍たちは、皆、恐縮しながら我愛羅から米飯の入った皿を受け取っていた。カンクロウは、人垣をかき分けて我愛羅の側に行った。
「オレが代わる。お前の部屋に珍客が来てるから行ってみろ」
「珍客?オレの…部屋にか?」
「ああ…」
「……」
 我愛羅は、慎重なカンクロウが、わざわざ自分の部屋に他人を通したことに眉根を寄せた。これまでならありえないことだった。
「…まさか…」
 我愛羅は、カンクロウの顔を見た。一つの心当たりがあったからだった。カンクロウは、大きく頷くと我愛羅の手からしゃもじを奪った。
「早く行け。待ち人来たるだ」
 我愛羅は、人垣をかき分けて一目散に食堂を飛び出した。珍しく慌てている我愛羅に周りの者は驚いたが、声をかけるより先に我愛羅は、廊下を走り階段を駆け上がった。
『こんな遠くまで……』
…今度は、オレが我愛羅を訪ねていく番だってばよ…
『ナルト…!!』
…約束だ…
「ナルト!!」
 我愛羅は、勢いよく部屋の扉を開け、そこにナルトを見つけた。
「我愛羅…久しぶりだってばよ」
「……!!」
 我愛羅は、何も言わずにそのままナルトに抱きついた。驚いたのは、ナルトの方だった。そして、しばらく二人は、そのまま互いの鼓動を聞いていた。
「元気そうで安心したってばよ」
 初めに照れくさそうに話しかけたのは、ナルトの方だった。我愛羅も次第に冷静になると恥ずかしそうにナルトから離れた。
「どうしてここに…?」
「お前が、砂で呼んだから」
「砂で?…では、暗号は、お前のところに届いてたのか」
「ほら。これだろ」 
「あっ…」
 それは、行方不明になったとばかり思っていた残りの砂だった。
「エロ仙人に解読してもらったんだ。そしたら直接お前に聞けって言って…ここに連れてきてくれたんだ」
「……」
「これって何て書いてあんの?」
「…お前、砂の暗号が読めなかったのか…」
「え、だって砂の文字って木ノ葉とは全然違うし…オレってば、まだ習ってないし…多分、習っても無理かもしれないけど」
「…少しは勉強しろ!」
 我愛羅は、照れ隠しに怒るとその砂を木ノ葉の文字に変換して空中に撒いた。
「これなら読めるってばよ…」
 ナルトは、一読すると、隣で耳まで赤くなっている我愛羅に気がついた。
‘ナルト。誕生日おめでとう。オレは砂漠基地でがんばっている。だか、時々、無性にお前に会いたくなる。そんな時は、空を見る事にしている。そして、あの時、お前と約束した事を思い出す。オレは、必ず風影になる。だから、お前もサボらずに修業しろ。そして、早く火影になって…オレと同盟を結ぼう’
「我愛羅…そんなにオレに会いたかったんだ」
「バカ…そんな事、聞くな」 
 嬉しそうに問い返す無粋なナルトに我愛羅は、恥ずかしそうに顔を背けた。ナルトは、そんな我愛羅の顔をニヤニヤしながら見ていた。
「エロ仙人が、お前に直接聞けって言ってた理由がわかったってばよ」
「…どうせ修業をサボっていたんだろう」
「いや。そこじゃなくて…第一サボってるのは、オレじゃなくてエロ仙人の方だってばよ。オレってば、やる気満々なのにあのスケベ親父は、女湯ばっか覗き見してるし…砂隠れに来たのだって本物のハーレムが見られるから…って言ってたし」
「ハーレム?…そんなものは砂隠れにはないぞ…」
「だと思った。でも、お前…本当にがんばってるんだな。その恰好見てよくわかったってばよ。それ…ここのエプロン?その下は、みんなと同じ忍装だよな。額当てもちゃんとしてるし…本当に一人の忍に戻って真面目にがんばってんだな。お前…」
 我愛羅は、まだエプロンをつけたままの姿だったことに気が付くと慌てて外した。忍装は、ウエシタの命令に従ったまでの事だった。
「オレは、きっちり400g飯が取り分けられる」
「すげー砂瀑の我愛羅が、食事係か。みんな怖くて好き嫌いなんか言えないってばよ。残したら殺される」
「ばか…」
 集団に同化する…それは、過去の我愛羅を知る者にとっては、理解しがたい変化だった。だが、協調性を持つことで我愛羅は、砂漠基地の一員としてごく自然に迎え入れられた。思えばそれこそが、ウエシタが我愛羅に与えた最大の功績だったかもしれない。
「おい。お前ら飯どうするんだ?」
 少しするとカンクロウが、戻ってきた。我愛羅は、ナルトを伴い食堂に向かった。そして、サテツ達にナルトを紹介した。ナルトは、我愛羅に仲間ができたことを喜んだ。セキは、我愛羅に国境を越えた友人がいることに驚き、ツブサは、ますます我愛羅を尊敬のまなざしで見るようになった。
 それから3日後、バキは、帳簿の監査を終えるとカンクロウを残してナルト達とともに砂漠基地を出発した。


それぞれの野望
 
「まったく砂の連中ときたら、どいつもこいつもまるで役に立たないわね…」
「ボクが出会った2人の下忍もまるで子どもでしたよ。木ノ葉崩しで大勢死んでしまいましたから砂隠れは人材不足なんでしょう」
 穢土転生させた双子が、シムーンの犠牲になったことを知ると大蛇丸とカブトは、作戦を中断し撤収した。
「結局、また我愛羅に活躍の場を与えただけだったわね。風影不在の今が絶好のチャンスなのにねぇ。我愛羅を手に入れ同時にこの広大な大地とその下に眠る地下資源を手に入れる。この国を蛇が支配する大帝国の拠点にすること…そんな地図を描くのも悪くはないでしょ。カブト」
「本気ですか?…真理が好きなあなたが人や権力に執着するとは思えませんけど…」
「正解よ。カブト。…まぁ、退屈しのぎにはなったわ。それにしても…あの男…ガレキは、あの子をどうするつもりかしらね。サソリの次は、我愛羅の排除…目的の為には手段を択ばない男よ。きっとこのままでは、終わらないでしょうね」
 大地をはって移動する巨大な大蛇マンダの背に乗って、大蛇丸は嫣然と笑った。
「お暇を持て余しているのなら次の遊びにおつきあいしますよ。僕は、あなたの忠実な部下ですからね。大蛇丸様」
 カブトは、髑髏のようなクレーターを刻む月を背負った大蛇丸の足元にかしずいた。
「ふふ…。でもその前に一旦アジトへ戻りましょう。サスケ君がそろそろ退屈して怒っているはずよ。ずっと1人でお留守番ですものねぇ」
 大蛇丸は、長い舌で自分の顔をひと舐めすると甲高い声で笑った。


 10月半ば過ぎ、予定通り上役選挙が行われた。バキとともに当選したのは、予想通り風使いの上忍1名と砂漠連合が立てた特別上忍1名だった。貴重な座席を失った傀儡部隊を叱責するとチヨは、憤怒のあまり卒倒した。
「このままでは我々は、合議制会議からはじき出される。もう由良しかおらぬが、アヤツは、我愛羅贔屓で当てにならぬ。どうしたものか。そうじゃ…まずは、カンクロウを適当に結婚させて子を作らせよう。そして、その子を新たな人柱力とし、四代目風影のように合議制会議を横から説得するのじゃ」
 医療班に搬送されながら、チヨはうわごとを繰り返した。それは、疾風の早さで砂漠基地にいるカンクロウの耳にも伝わった。
「くそババァ。冗談は、あの世に行ってから言うじゃん」
 怒ったカンクロウは、出発のためにまとめた荷物を床に投げつけた。そして、乱暴に書きなぐった手紙を伝書鳥で飛ばした。
‘オレは、このまま砂漠基地で我愛羅の護衛として勤務する。後の手続きは任せた。チヨバアが、引退するまでは、砂の里に帰るつもりはないのでよろしく頼む’
 受け取ったバキは、ため息をつきカンクロウの為に人員調整を行った。同時に西の国境警備隊へ左遷されたウエシタの代わりに新たな部隊長を第三中央方面砂漠部隊基地に赴任させた。
 

 乾いた大地に吹く風は、一時として休まることない。それは、笛の音にも似た悲しげな音を奏でながら岩山を削り砂を運ぶ。
 遥か上空に続く澄みきった青空は、今日もその大地と風の営みを見守っている。その原風景を人々は、砂漠と呼んだ。                 


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