悪魔のテマリ唄 (風花テマリ編)
「我愛羅…」
夜半、小さな気配に気がつくとテマリは目をこすりながら、素足のままじっと立っている我愛羅を見た。
「寒いだろ。入るかい」
上掛けをはぐり、隣を空けると、我愛羅が、冷たい体をその空間に潜り込ませた。
「こんなに冷えて…」
砂漠に雪が降る夜、我愛羅が、テマリのところにやってきた。
「こうしていればすぐに暖まるよ。じっとしていな」
我愛羅は、黙ってうなづく。鳩尾のあたりに回されたテマリの手に自分の手を重ねると、テマリは、ゆっくりと腕を入れ替え、我愛羅を抱き締めた。
やがて、耳元にテマリの規則正しい寝息が聞こえてくると、我愛羅は安心して体から力を抜いた。人の温かさを背中に感じると、浅い眠りが訪れた。
「ぐぉぉぉ…。ぐぉぉおおおお。……グオオオッッー!!!」
地の底から聞こえてくるようなその獰猛な響きに我愛羅は、突然、目を覚ますと防御の体勢を取った。どうやら、妖獣の正体は、隣で眠る姉・テマリらしい。
「……」
しばらく観察してみると、音程を変え、音量を変え、それは、留まるところを知らず変化しながら咆哮する。時折、手足もばたつかせるところを見ると、何者かと対峙しているときの夢を見ているのだろう。
我愛羅は、テマリの側を離れると、黙って部屋を出て行った。テマリは、気持ち良さそうに、爆睡しているようだった。
「…眠れない…」
窓の外には、雪が花弁のように舞いながら降っていた。我愛羅は、吐息の白さを確認すると、皆が寝静まっている廊下を一人歩いた。後には、小さな足跡が残った。
小説目次 外伝 風花「夜の訪問者2」(カンクロウ編 その後)
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